恋愛小説
黄色い泪31
「大人しくしてたら手荒な真似はしないから・・・おい、お前は入り口を見張ってろ。」
「OK!」
奴らの中で一番ひ弱そうなヤツが、おそらくこれから始まる事を人目に触れさせない様にする為の見張り番に回される。
俺はいきなりその中の一人に背後から羽交い絞めにされ、もう一人からくいっと顎を持ち上げられた。
「やっ・・・何するんだ!離せよ!離せったら!」
「聴こえなかったのか?大人しくしてれば手荒な真似はしないと言ってんのに・・・」
必死で抵抗するけど、相手は4人もいるし、力では絶対に勝てない。
「だっ、誰か、助けてっ!うっ・・・んんんっ・・・」
俺の口はニキビ面したそのグループのリーダーらしいヤツの手で塞がれた。
「大人しくしてりゃ、直ぐに終わらせてやるのによ。」
もう、駄目だ・・・汚らわしい奴らがニヤニヤいやらしい笑みを浮かべながら俺の裸をカメラで撮ろうとしてるのか、スマホを持ってレンズを俺の方に向けた。
「男の裸なんか撮って何するつもりだよ?この変態野郎!」
絶体絶命と思われたその時だった。
「カズ!大丈夫か?この野郎!てめえら、カズから離れろ!」
大野さんが奴らを俺から引き剥がして俺の目の前に立ちはだかった。
「お、大野さん?」
「お、大野?な、なんだ・・・お前の知り合いだったのか?」
「カズに何した?」
「な、何もしてねえよ・・・」
「携帯貸せっ!」
「えっ・・・だから何もしてないって言ってるじゃん!」
「だったらその携帯の画像今直ぐ見せろ!見せないとどうなるか分かってんだろうな?」
「わ、分かったよ・・・」
大野さんはそう言って一人一人の携帯を取り上げて俺の裸の画像が残っていないか確かめた。
「いいか、もう二度とカズに近付くな!今度こんなことが有ったらただじゃ済まないからな。」
俺を襲い掛けた研修生らは尋常じゃないくらい大野さんに恐れをなしてその場から逃げ去って行った。
大野さんはタオルを俺に手渡しながら
「大丈夫か?」
さっきとは別人かと思うくらい優しく俺に話し掛けた。ホッとしたからか、俺は急に涙腺が崩壊してポロポロと泣き始めた。
「うううっ・・・大野さん・・・ううっ・・・おれね・・・」
「もう大丈夫だから、泣くなよ。あ、本当に何もされてないか?」
「う、うん・・・だけど、怖かった・・・」
「マジか。あいつら・・・クソッ!っていうか、これからだったの?風呂?」
「あ、うん・・・」
「だったら直ぐに入ったら?いつまでもそんな格好じゃ風邪ひくよ。」
「う、うん・・・」
「あ、待って!俺も一緒に入るわ。カズ一人じゃ危険だから。」
そう言って大野さんも戻ったばかりだろうけど、一緒に風呂に入ってくれた。
俺達は2人で並んで湯船に浸かった。何から話していいのか、こんなことになっちゃったから順番も何もあったもんじゃない。
「あ、あのさ・・・どうして俺が脱衣所に居る事分かったの?」
「ああ・・・宿舎に戻って直ぐに相葉ちゃんからカズの事聞いたんだよ。」
「あ、相葉さんから・・・」
「もう、ビックリしちゃったよ。何で教えてくんなかったの?」
「あなたのこと、ビックリさせたかったの。」
「先に教えてくれてたら、こんなことにならずに済んだのに。」
「あいつら何なの?男の裸の画像なんか撮ってどうするつもりだったのかな?」
「新入りは気を付けないと狼どもの餌食になる。」
「え、餌食?な、何それ・・・」
「分かってないな。画像だけで済むと思う?」
「えっ?」
「撮った画像使って脅しを掛けるつもりなんだよ。ばら撒かれたくないなら部屋に来いとか言ってさ。ここはね、女人禁制の餓えた野郎が集団で生活してるところなんだ。男子校とは訳が違うんだよ。俺が帰って来たから良かったけど、ちょっとでも遅かったらアウトだったぞ!分かってるの?」
「ご、ゴメンなさい・・・」
大野さんが初めて俺に対して真剣な顔で怒った。それだけ俺が無防備過ぎたって事なんだ。
「お前くらい可愛かったら、皆が狙うの分かり切ってるじゃん・・・」
「ええっ?」
「もういいよ。俺がカズの事は全力で守るから。」
大野さんはそう呟いて湯船から上がり、洗い場へと向かうから俺も慌てて後を追い掛けた。
「ハァ・・・も、カズ?」
「え・・・」
「頼むから前隠してくれ!」
「えっ?何で?風呂だから仕方ないでしょ?」
「その・・・久し振りだから・・・俺が平常心で居られなくなる。」
大野さんはそう言って凄く気まずそうに俺から視線を逸らした。
つづく