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黄色い泪32
そして、風呂から上がった俺達は食堂で向かい合わせに座って一緒に夕飯を食べた。
さっきの騒動が研修生の間で既に噂になっているみたいで、俺達の座ってるテーブルには誰も近寄って来ない。
「カズ、とっとと食べて俺の部屋行くぞ。ここじゃ何も話せない。」
「う、うん・・・」
確かに周りが聞き耳を立てて俺達の話を聞いてる気がする。
俺達は黙々と飯を食べ、早々に切り上げて二人で大野さんの部屋に行った。
大野さんの部屋に入ると、シングルのベッドと小さいテーブルとテレビが1台だけの殺風景な、ホント寝るだけの為の部屋って感じだ。
狭くて座るところが無いから、俺はベッドの上に腰掛けると、大野さんがビニール袋からお茶のペットボトルを取り出して俺に手渡した。
「あ、ありがと。」
「じゃ、話を聞こうか?」
「えっ?」
「えっ、じゃないよ。社長から直接スカウトされたって本当か?」
「あっ、うん。」
「何時だよ?」
「演劇コンクールが有った日だよ。」
「そんな大事なこと分かってて黙ってたの?」
「ご、ごめんなさい。だって、本当にどうしようかギリギリまで悩んでたんだもん。」
「俺は頼りないから相談相手にもならなかったんだ?」
「そ、そんなこと誰も言ってないよ。だ、だけどさ、あなただって・・・何で舞台に出ること教えてくれなかったの?」
「べつに隠そうとして黙ってた訳じゃないよ。」
「電話では何も言ってくれなかったじゃない。」
「俺の話は何時でも出来るけど、カズの話は人生を左右するような話だよ。それなのに・・・」
「あなたがね、喜んでくれるかなって思ったの。だけど、迷惑だった?なんか・・・ゴメンね。」
「どうするの?ここに来ちゃったって事は、真剣に役者を目指すんだ?」
「正直、先のことは俺にも分かんないよ。俺はあなたの傍に居たかっただけだし。」
「カズ・・・今の、俺以外の人間に絶対に言ったら駄目だからね?」
「えっ?」
「分かってる?ここは人を蹴落としてでも役者になりたいって人間が集まってんだよ。中途半端な気持ちでここに来たことがバレたら直ぐに東京に追い帰されちゃうよ。」
「そ、そうなんだ?」
「いいか?カズは学校も辞めてここへ来たんだろ?もう進むべき道は一つなんだから、覚悟決めてレッスン受けないと駄目だよ。」
「わ、分かってますよ。・・・っていうか、俺に逢えたのに、あんまり嬉しそうじゃないね?」
「そんなわけないじゃん・・・俺、どんだけ嬉しかったか・・・」
そう言って、ようやく大野さんが俺をギューッと抱き締めてくれた。勢いでベッドに倒れ込むと、大野さんの顔がゆっくりと近付いて来たから俺も目を閉じた。
1か月振りに交わす口づけは凄く甘くて濃厚で直ぐに体の中心が熱くなった。
長いキスの後、大野さんは物凄く切ない目で俺を見つめるから、俺は全部欲しいって訴える様にもう一度キスをせがんで唇を尖らせた。
「駄目だよ・・・ここじゃ無理。」
「ええっ?何で?2人っきりだから平気でしょ?」
「ここって、薄い壁一枚で仕切られてるだけなんだよ。隣のヤツのイビキまで聞こえてくるんだ。」
「えええっ?」
「変な声出したら、隣にまで筒抜けだから・・・」
「声、出さなけりゃいいよ・・・」
「無理ってば。」
「やだっ!俺、これ以上我慢できない。」
「うん・・・俺も、無理かも・・・」
ということで・・・
結局二人とも我慢出来なくて、狭いベッドの上で布団を頭まで被って必死にお互いに声を押し殺して、変に振動も怪しまれるからってゆっくりゆっくり腰を動かしたりとかして愛し合ったら、何か焦らされてるみたいでこれが妙に興奮してしまい、めちゃくちゃ感じて何度も昇天に達してしまった。
事を済ませると、大野さんは俺を部屋まで送り届けてくれた。一緒に朝まで居たかったけど、そこは周りの目を気にして断念した。
「もう、あいつらは何も悪さしてこないと思うけど、一応相葉ちゃんにも頼んでおくから。出来るだけ稽古の時は一人で行動しないようにね。」
「う、うん・・・分かった。」
「あ、それから風呂は俺が帰るまで待ってろ。暫くは一緒に入ってやるから。」
「うん・・・ありがと。」
「それじゃ、おやすみ。」
「おやすみなさい・・・」
何だか大野さんにとって俺って厄介者もいいところだよな。こんなはずじゃなかったんだけど・・・
最初っからこういう状況になることが分かっていたら、俺ももう少しこっちに来るの考えたかもしれないけど、とにかくあの人と離れたくない一心だったから。
結局、俺のやってる事は、好きな人に迷惑掛けちゃってるだけなんじゃ?
良かれと思ってやってる事が全て裏目に出て、妙にテンションが下がりまくる俺だった。
つづく