恋愛小説
黄色い泪34
そして、俺は再び稽古に戻り、その日のレッスンはとりあえず何ごとも無かったかのように普通に終えて宿舎に戻った。
新人ばかりで演じる初舞台の主役に抜擢されてしまった俺。そして大野さんとあの佐々木という演出家の関係・・・
京都に来てから間もないけど、全然心が休まる暇がない。とにかく大野さんが戻って来たら、あれこれ考えるよりも本人に直接聞くつもり。
舞台の主役の件は、誰がどう考えたって普通じゃない。それについては直接社長に問い合わせてみる必要がある。
風呂も食事も大野さんが帰って来てから一緒にって思ってたから、俺は部屋で大野さんの帰りを待っていた。
そしたら、7時前くらいに大野さんから俺のスマホに着信が入った。
「もしもし?」
「あ、カズ?ゴメン。今日、ちょっと遅くなりそうなんだ。悪いけど、風呂は相葉ちゃんと一緒に入ってくんないかな?」
「ええ?やだ。遅くなるってどれくらい?俺、あなたが帰るまで待ってるよ。」
「でも何時になるか分かんないからさ、相葉ちゃんには俺から電話しとくから。」
「あ、ねえ・・・俺ちょっとあなたに話したい事有るんだけど」
「それって明日じゃ駄目か?」
「え?・・・あ、あのさ、舞台はもう終わってるんだよね?これから何処か行くの?」
「あ、うん。佐々木さん・・・カズも知ってるだろ?」
「え?う、うん・・・」
「急に飯に誘われちゃってさ。断れないんだ・・・」
「佐々木のオッサンと?」
「オッサンって・・・」
「それって、パワハラでしょ?訴えなよ。」
「ええっ?」
「あなた、昨日俺の事は守るって、そう言いましたよね?」
「う、うん。言ったけど。」
「俺と佐々木のオッサンとどっちが大事なの?」
「えええっ?もう、何言ってんの?」
「俺の方が大事なら今直ぐ戻ってきて!」
「ちょ、ゴメン。何か訳が分かんないんだけど、俺もう行かなきゃ。戻ったらまた連絡すっから。」
大野さんの電話の声はしどろもどろに聞こえた。
信じたくはないけど、あんな奴と二人っきりでプライベートでご飯?これってもうほぼ確定的。
俺は一体何の為に京都まで来たの?大野さんとずっと一緒に居られると思ってここまで追い掛けてきたっていうのに。大野さんはそれを望んでなかったのかな?
俺が勝手に押し掛けて来ちゃったものだから、仕方なく優しくしてくれてるだけなの?
だったらどうして夕べ、俺の事抱いたりしたんだろう?それも仕方ないから?絶対それは違うと思うけどな。
本当に大野さんは何考えてるんだろ?俺はこれからどうすればいいの?
俺はベッドの上に寝転がってふて寝してた。すると、ドアの向こうから相葉さんが俺を呼んだ。
「ニノ~?俺、相葉だけど・・・」
「あ、どうぞ。開いてますよ。」
「入るね・・・」
「何か俺に用ですか?」
俺はかったるそうにベッドから体を起こした。
「え?さっきおーちゃんから連絡が有って、ニノと一緒に風呂に入ってくれって頼まれたから来たんだけど・・・」
「ふうん・・・ねえ?相葉さん?」
「えっ?」
「相葉さんってさ、大野さんとはどういう関係なの?」
「はっ?関係?」
「だって、いちいち大野さんから俺のお世話頼まれてるよね?面倒だと思わないの?」
「べつに面倒なことはお願いされてないから。一緒に風呂に入るだけならお安い御用だし。僕とおーちゃんはね、同じ日にオーディション受けた同期生なんだよ。」
「へえ・・・それだけ?」
「ん?それだけってどういう意味?」
「大野さんって、高校の時は同性からも異性からもモテモテだったんだ。」
「あ、それは知ってるよ。嵐が丘の大野って言ったら、うちの高校でもファンの子結構居たからね。」
「へえ、そうなの?」
「有名だよ。おーちゃんってさぁ、カッコつけないし、モテモテでも自覚がないところがいいんだよね。」
「それじゃ、本当に相葉さんは大野さんとはただの同期生ってだけなんだ?」
「もちろん。何で?」
「大野さんはどうして相葉さんにお願いしてまで俺の事心配すると思います?」
「そりゃ、やっぱり母校の可愛い後輩だから・・・でしょ?」
「はぁ、やっぱり・・・」
「え?何?どうしてそんな事聞くの?」
「何でも無いですよ。」
「何でもないこと無いでしょ?やだな、気になるじゃん。教えてよ!」
「それより風呂に付き合ってくれるんでしょ?行きましょうよ。」
「ええっ?ちょっと何?気になるからちゃんと話してよー。」
相葉さんって相当鈍いな。ここまで言えば、俺達がただならぬ関係だと普通は気付きそうだけどな。
それから俺は相葉さんにガードされて風呂に入った。
「相葉さんは聞きました?今日大野さんが遅くなる理由・・・」
「え?聞いて無いけど。とにかく遅くなるからってしか・・・」
「佐々木のオッサンとご飯だそうです。」
「えええっ?本当?やっぱ噂は本当なのかなぁ」
「やっぱりそうだよね?プライベートでご飯誘うなんて、絶対下心あるよね?」
「真相は分かんないけど、俺達だけでも信じてあげようよ。おーちゃんが舞台の配役勝ち取ったのは実力だと思うけどな。」
「うん・・・でも佐々木のオッサンは間違いなくパワハラしてるよ。」
「まぁ、お偉いさんから誘われたら俺達も断れないだろうしね。それをパワハラと受け止めるかどうかは本人次第だよね。」
「大野さんって、ホント危なっかしいのよ。パワハラも気付かずに奢ってくれたりしたら、皆イイ人だって言いそうだもの。」
「まあ確かに。基本よっぽどのことが無い限り怒んない人だしね。とにかく優しいからね。」
「そーだよ!だからあのオッサン勘違いしてるんだ!」
「え?あのさ・・・もしかしてだけど、ニノっておーちゃんのこと好きなの?」
えええ?今頃?って思ったけど、俺はその問いに対して肯定も否定もせずに、とにかく相葉さんの天然振りが可笑しくって俯きながら笑った。
つづく