
第5章
君の中の真実⑦
バイト初日の山下君は、特にこれといってトラブルもなく、ニノがつきっきりで仕事を引き継いで一日を終えた。
「山下君、今日はもう上がってもらっていいよ。」
「はい。それじゃあ、僕はこれで失礼します。お疲れさまでした。」
「お疲れ様。気を付けて帰ってね。」
ニノがパソコンデスクの前で首を左右に傾けてコキコキと鳴らしてる。
「ニノ、山下君どんなだった?」
「えっ?」
「仕事だよ。引継ぎ出来そうか?もうあと3日しかないけど。」
「あー、大丈夫じゃない。俺が居なくなっても奈緒さんも居る事だし。」
「そうか、良かったぁ。」
「何が良かったの?」
「えっ・・・」
「なかなかのイケメンですよね、あいつ。誰とも付き合ってる人居ないって。今はフリーなんですって。」
「へ、へえ・・・。さすが、ニノだな。そんなプライベートな話までしたんだ?仲良くなるの早いな・・・」
「へえ。ヤキモチ?それってどっちに妬いてるの?」
「ま、待ってよ。ヤキモチって何だよ。」
やっぱりニノは完全に俺の事を疑ってる。
「おーのさん?」
「な、何?」
「昨日から態度が変ですよね?俺に何か隠してませんか?」
「だから、おいらが何を隠すっていうんだよ?あのさ、奈緒ちゃんに何を言われたか知んないけど、おいら一つも疚しい事なんてないぞ。」
「そういうこと言うから余計怪しいんですよ。」
「おいらと奈緒ちゃんの言う事、どっち信じるんだよ?」
「そりゃあ、俺だってあなたの言葉を信じたいよ。でも・・・」
「でも?何だよ?」
「何も俺がモデルの仕事に行かなきゃならないって時にさ・・・紛らわしいことしなくてもっていうか、ちょっと神経疑っちゃうんだよな。」
「な、何が紛らわしいんだ?」
プルルルル・・・プルルルル・・・
「ほら、電話だよ?」
「あっ、相葉君だ。ハイ。もしもし?大野ですけど。」
「あ、大野さん?僕です。相葉です。この前は突然お邪魔してすみませんでした。あの、ところで次の日曜日って空いてますか?」
「えっ・・・あ、もしかしてバーベキューの話?」
「はい。もし都合が良ければいかがかなって思って。」
「あー、でもおいらその日は実家に用事で帰んないと・・・」
「ええっ?そうなんですか?残念だなぁ。それじゃ、その次はどうですか?」
「それがさぁ、ニノが来週からモデルの仕事を始めることになったんだよね。だから、そのスケジュール次第だと思うんだけど。」
「出来れば僕はお相手の二宮くんにお会いしてみたいんですよね・・・」
「そ、それってあれでしょ?俺達の事を小説の題材に使いたいって事だよね?」
「あ、あくまでも参考にさせて貰うだけで、全部を丸ごとノンフィクションにしようとか、そういうんじゃないんで。」
「何?相葉さん俺に逢いたがってるの?」
「えっ・・・あ、相葉君ちょっと待ってくれる?」
ニノが電話の内容を横で聞いてたから、直ぐに話に割り込んで来た。
「あ、うん・・・ニノに会ってみたいって。」
「俺達の事小説に書いてくれるの?」
「うん、おいらは大して話せる事はないって断ってるんだけど・・・」
「面白いじゃない。ちょっと電話貸して。」
「ええっ?」
ニノはそう言って俺からスマホを奪い取った。
「あ、もしもし、お電話代わりました。二宮ですけど・・・うちの大野が何時もお世話になってます。」
「あ、初めまして。相葉と言います。」
「お話は聞きました。あの、それって協力したら幾らか報酬は頂けるんですか?」
「え?あー、それは勿論です。タダでとは言いませんよ。」
「分かりました。日曜日なら夕方頃にはお伺い出来ると思います。」
「ちょっ、ニノ?」
「いいじゃん、どうせ実家なんて目と鼻の先でしょ?・・・あ、すみません。いえいえ、こっちの話です。えっと、こっちを出る時ご連絡したらいいですか?」
「はい。事前に連絡頂けると助かります。」
「それじゃ、日曜日に・・・」
ニノが電話を切って俺にスマホを手渡した。
「マジで話のネタに使われてもいいのかよ?」
「だって、相葉雅紀と言ったら今めちゃくちゃ人気急上昇中の売れっ子ベストセラー作家さんだよ。報酬貰えるんだって。楽しみだね。」
「お、おいらは知らねえぞ。ニノが勝手に決めたんだから・・・」
「それじゃ、報酬は100%わたしが頂けるって事で異論はありませんよね?」
「ええっ?・・・うん、勝手にしなよ。」
山下君の事は、お陰でここでは言い争いにはならなかったけど、まさかニノが相葉君のBL小説のネタ提供に乗り気にになるなんて思ってもみなかったから、正直俺は戸惑いを隠せずにいた。
つづく