第5章
君の中の真実④
そして、ニノはその翌日、若干の不安を拭い去れぬままに潤君の付き添いで、カメラマンとスタッフに会いに行った。
ニノは背格好は小さくて華奢だけど、今の若い子はジェンダーレス男子とかいって、可愛い系の男の子も注目されるらしい。
その辺の事は俺はさっぱり分からないけど、ニノは可愛らしいって事だけは間違いない。
そういう理由から、すっかりスタッフに気に入られちゃったみたいで、その場で仕事が決まってしまったらしい。
「すげえな。そんな簡単に仕事決まるとは思ってなかった。」
「俺が凄いんじゃないよ。松本さんの顔で採用して貰ったようなものだもの。」
「そうかなぁ?単に潤君の人脈だったとしても、不細工な奴なら絶対話は決まらないよ。」
「そういう訳なんで、来週から俺、モデルの仕事始まるから、あなたの仕事は手伝えなくなりますよ?」
「うん。大丈夫。今日からバイトの採用面接するからさ。」
「え?そうなんだ。段取りいいね。」
「うん、ニノが採用になるのは分かってたから、直ぐに手配掛けておいたんだ。」
「ふうん。」
「シンガーソングライターの仕事も早く出来る様になるといいな。」
「あ、そうそう。それも松本さんが何か凄く張り切ってくれててね・・・」
「え?潤君が・・・」
「うん。暫く仕事を掛け持ちして俺のマネージメントまでやってくれるって。」
「へ、へえ・・・マネージメントまで?」
「そう。モデルの仕事がきっかけで、他所から仕事のオファーとか来るかもしれないから、そうなると大変だからって。」
「ふうん・・・」
そんなにトントン拍子にいくんだろうか?そんなことより、潤君が今後はニノに付きっ切りになるって事が、ちょっと俺は引っ掛かってた。
そして、その日から新しいバイトの採用面接が始まった。
5人程面接して最初の4人はイマイチやる気を感じられなくて、5人目に現れた彼が一番目の輝きが違ってた。
「山下君は・・・美大出身なんだ?」
「はい。一応デザイン学んでます。」
「うち、今回は臨時採用だけど、場合によっては長期でお願いするかも知れないけど、それは大丈夫かな?」
「むしろ、そうして頂けると有難いです。」
「但し、正規採用というわけではないけど、あくまでもアルバイトだよ?」
「あ、それもご心配なくです。俺も先生みたいにいずれは独立したいって考えてるんで。」
「そっか。独立が目的なら僕もその時は何かしらアドバイスは出来るかな。」
「本当ですか?先生、俺仕事は頑張りますんで、なんとか宜しくお願いします!」
「じゃあさ、早速明日から来てくれる?」
「え?本当ですか?」
「うん。今女の子一人と身内の子に手伝って貰ってるんだけど、身内の子の方が来週から手伝えなくなるから、正直急いでるんだ。これが一応雇用契約書。明日来るときにこれにサインと印鑑を押して持ってきてくれるかな。」
「わ、分かりました!宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくね。」
話してて、感じも悪くないし、俺はその場で採用を彼に決めた。
「それじゃ、気を付けて帰ってね。」
「はい。ありがとうございます。それじゃ、また明日・・・」
玄関でその採用の決まった彼を見送ってたら、後ろから奈緒ちゃんが仁王立ちして立っていた。
「えっ・・・何?どうかした?」
「先生!何でよりによって、あの人採用にしたんですか?」
「何でって・・・」
「私は反対です!」
「えっ?で、でも、ニノは来週から別の仕事始まるからって説明したよね?」
「それはお聞きしました。でも、どうしてあの人なんですか?私、納得出来ません。」
「ど、どうしてって・・・彼が一番やる気が漲ってたから・・・」
「そりゃ、そうでしょうよ!」
「はっ?」
「先生ってホント鈍いですよね?しかもデリカシーってものがまるで無いときてる。二宮さんにだって、反対されるの目に見えてますよ。」
「え・・・いや、その、何が言いたいの?」
「彼が明日から来るんなら、追々分かる事です。せめて私にじゃなくても二宮さんに相談なさったら良かったのに。ホントに私、知りませんからね!」
「ちょっ、奈緒ちゃん?」
何で奈緒ちゃんはそんなに怒ってるんだ?彼は今日初めてここにやって来たし、絶対初対面だってのに。
「本当に彼に何も感じなかったんですか?」
「ええっ?」
「あの目は間違いなく先生のこと・・・」
「は?」
「あ、いえ、今のは聞かなかったことに。」
それは、女の直感というものだったらしいけど・・・このバイトを採用したことで鎮火しかけてた焼け木杭に再び火がつこうとは、俺は思いもしなかった。
つづく