
第5章
君の中の真実⑨
「はじめまして。二宮と言います。」
「は、初めまして。えええ?ニノちゃんって男の子なの?」
「は?え?あ、いちおう・・・」
「やだ、智がニノちゃん、ニノちゃんって言うから女の子だとばかり思ってた。」
「なんだよ?そんなのどっちでもいいじゃん!」
「まあ、とにかくどうぞ・・・狭くて散らかってますけどどうぞ。」
「お邪魔します。」
俺はニノを連れて実家に戻って来た。前以て電話はしておいたけど、会わせたい人が居るってことしか言ってなかったから、さすがに母ちゃんもビックリしてた。
「ねぇ・・・あんまりだよ!俺の事ちゃんと説明してくれてなかったの?」
ニノがコソコソと小声で俺に訴える。
「口で言うより実際に会ってみりゃ分かるから。」
「そりゃ、そうだろうけど・・・」
リビングに入ると、父ちゃんも俺達を待ってくれてた。
「おぉ、智。どうだ?仕事はうまくいってるのか?」
「うん。なんとかやってるよ。あ、父ちゃん、彼がニノだよ。」
「あ、初めまして。二宮といいます。」
「何時も智がお世話になってるみたいで。」
「いえ、どちらかといえば僕の方がお世話になってるんで。」
父ちゃんは、ニノが男だからといって、これといったリアクションはしない。父ちゃんは昔からそうなんだ。成績が悪くても叱られた事もない。
常に息子に対して興味がないというわけじゃなくて、あくまでも放任主義といった感じ。
「まあ、とにかく座って。」
「ニノちゃんは、コーヒーでいいかしら?」
「あ、おばさん、どうぞお構いなく。」
「あら、お行儀が良いのね。うちでは遠慮とかしなくていいのよ。」
「は、はあ・・・」
「そうだよ。ニノは緊張しすぎだって。」
「なんだよ。あなただって俺の母さんに会う時、めっちゃ緊張してたじゃん。」
「何?もうニノちゃんのお母様にもお会いしてるの?」
「うん。あのさ、おいら真剣にニノとの結婚を考えてるんだ。」
「ちょっ、ちょっとおーのさん?」
「何だよ?ニノもおいらと結婚したいんじゃなかったの?」
「ま、待ってよ。」
「なんだか意見が食い違ってるようだな?」
「智の早とちりってやつ?」
「ち、違うよ!ちょっとニノ、こっち来て!」
俺はニノの腕を掴んで二階の元々の俺の部屋へ連れてった。
「ニノ?!」
「な、何なの?」
「何なの?は、こっちの台詞でしょ。」
「えっ・・・」
「どうしてあんなこと言うの?」
「あ、あんなことって?」
「どうして今日ここに連れて来たと思ってるの?」
「いや、それは・・・あなたの言いたいことは分かるよ。だけどね、うちの母さんにあんなこと言われたからって、何も結婚まで急いで決める必要ないと思うんだけど。」
「俺達は世間的に考えても普通じゃないじゃん。」
「そ、そうだよ?」
「だったら、回りくどい説明するよりも結婚する意思が有って付き合ってるって親には説明した方が早いんだよ。」
「で、でも・・・」
「いいから、ニノはうちの親から何を言われても黙ってろよ。分かった?」
「わ、分かったけど・・・」
「けど、何?」
「いや・・・いいよ。あなたに合わせればいいんでしょ?」
何だ?その言い方?なんかムカつく。どうしてニノは分かってくんないんだろう?ちょっと興奮気味の気持ちを落ち着かせて再びリビングの親たちの元に戻る。
「ゴメン。さっきの話だけど、おいらはニノとゆくゆくは一緒になろうと思ってるんだ。ニノのお母さんも許してくれてる。あとはうちの家族次第だと言ってくれてるんだ。」
「だけど、ニノちゃんは結婚まで考えてないんでしょ?」
「ぼ、僕は・・・」
「ニノも勿論おいらと同じ気持ちだよ。」
「おまえには聞いてない。母さんは二宮君に聞いてるんだ。」
「僕は、おーのさんとは今一緒に暮らしてますけど、結婚は・・・今のところ考えてません。」
「ニ、ニノ?」
「僕はおーのさんのことは大好きです。でも、僕は男だから将来子供も産んであげれないし、もしもこの先おーのさんに本当に相応しい女性が現れたとしたら、僕は黙って身を引く覚悟も出来てます。だから・・・あの、安心してください。」
「ニノ!何バカなこと言ってんだ?父ちゃんも母ちゃんも、ニノの言葉なんて信じなくていいからね。」
「まあ、あなた達もそろそろそういう年頃だし、うちはね、智の人生なんだからお相手がどんな方でも受け入れようとは思ってるのよ。だから、あとは二人の気持ち次第じゃない?」
「母ちゃん、有難う。それ聞いてホッとしたよ。ニノ?分かっただろ?うちは相手が男だろうが女だろうが、頭ごなしに反対なんてしないよ。それに子供の事だって、今は女の子でも子供出来なくて不妊治療まで受けてる人だって大勢いるらしいじゃん。」
「うん・・・それはそうだけど。」
「と、とにかく遅かれ早かれ俺達は結婚する。それを今日は言いに来たの。またゆっくり出直すよ。帰ろう?ニノ。」
打ち合わせとか一切せずに連れて来た俺も俺だったけど、ニノは俺と同じ気持ちだと信じて疑ってなかっただけに、とにかく唯々ショック過ぎて言葉も出ない。
俺達はうまくいってたんじゃなかったのか?俺に女が出来たら身を引く覚悟って何だよ?さっきのニノの言葉思い出したら、とてつもなく怒りが込み上げてきた。
帰りの車の中で文句一つも言いたかったけど、ニノはその後なんとも言えない辛そうな表情をしてひと言も喋らなくなった。
もう俺はニノが考えてる事が正直さっぱり分からなくなってきてた。
つづく