
第1章
君との再会④
2時間くらいその居酒屋でひたすら食って飲んで、奈緒ちゃんはすっかり酒に酔ってしまった。
「そろそろ帰ろうか?」
「ええっ?もう帰っちゃうんですかぁ?」
「んふふっ。だって奈緒ちゃん酔っ払っちゃってるじゃん。」
「そんなことないですって。だぁいじょうぶ。あと1杯だけ付き合って。」
「ダメダメ。また必ず連れて来るから。」
「ホントにぃ?約束ですよ。」
「ああ。約束するよ。」
まだ夜の9時前だけど、これ以上飲ませたら自分の足で帰れなくなるのはマズいと思ったから、俺は何とか彼女を説得して店を出た。
まだ通行人も多い大通りに出て、タクシーが並んでる方向へ歩き出すと、奈緒ちゃんの足がピタリと止まった。
「どうしたの?帰らないの?」
「・・・」
棒立ちして俯いてる奈緒ちゃん。
「どうした?気分悪いの?」
「・・・いやだ。」
「え?」
「帰りたくない。」
「奈緒ちゃん?」
「私・・・」
「ん?」
「先生のこと・・・」
「ん?」
「好き。」
「えっ・・・」
「私じゃダメですか?」
「な、奈緒ちゃん?どうした?あ、飲み過ぎか。」
「私、酔ってなんかいません!先生、答えて下さい。」
「答えてって・・・」
突然の告白。しかも人通りの多い路上のど真ん中。
「ちょっと、酔いを醒ました方がいいよ。おいで・・・」
俺は奈緒ちゃんの手を引いて、タクシーの停まってる場所から逆方向へと歩き出した。途中、小さい公園を見つけて、自販機でお茶を買うとベンチに腰掛けてからそのお茶を彼女に手渡した。
「はい、これ飲んで。なんか飲みになんて誘ってゴメンね。君がそんなにお酒弱いとか知らなかったから・・・」
「全然酔ってなんかいないです。」
「酔ってるよ。」
「酔ってません!」
「奈緒ちゃん、君くらい可愛いかったら、何もおいらなんかじゃなくても他に幾らでもいるでしょ。」
「それが先生の答え?」
「え?あ、いや・・・答えっていうか。」
正直、何て答えていいのか分かんなかった。好きか嫌いかという前に、さっきも大将に説明したけど、奈緒ちゃんはうちで働いてくれてるアシスタントの子という以外の何者でもなくて、そもそも恋愛対象として意識したことなんて一度もないわけだから、急にそんなことを言われても困るに決まってる。
「先生、今彼女も好きな人も居ないって言いましたよね?」
「い、言ったけど・・・」
「私じゃダメ?」
「あ、あのさ、おいらは今のところ結婚も考えてないしさ・・・」
「誰も結婚してくれなんて言ってません。付き合って欲しいだけです。」
「な、何でおいらなの?おいら、奈緒ちゃんの事嫌いじゃないけど、まだ君のこと何にも知らな過ぎて、その・・・」
「それ、無理だって言ってるんですよね?」
「い、いや、なんていうか、そうじゃないけど・・・」
「え?それじゃOKということですか?」
「あ、いや、そうじゃなくて。ほ、ほら、君だっておいらの事全部知らないじゃん。」
「そうやってうやむやにして無かったことにするつもりなんでしょ?」
奈緒ちゃんはそう言うと、突然目の前でしくしくと泣き出してしまった。
マジか・・・参ったな。
「と、とにかく今日のところは帰ってゆっくり休んでさ・・・この話はまた後日ってことで。」
「私、本気ですから!本気で先生の事・・・」
「わ、分かったから。とにかくもう戻ろう。」
暫くして落ち着きを取り戻した奈緒ちゃんを元のタクシーの場所まで連れて行き、なんとか帰宅させた。
はあ・・・やれやれ。タクシーを見送ったら、どっと疲れてしまった。
せっかく飲みに来たというのに、何だか完全に酔いが醒めてしまって、真っ直ぐ帰宅する気分じゃなくなり、俺は一人でたまに言ってるショットBarへと向かった。
つづく