君との再会⑤

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第1章

君との再会⑤

 

 

 

俺は行きつけのBerに着くと、カウンターの中央付近の席に腰掛けてマスターに会釈した。

「こんばんは。」

「いらっしゃいませ。」

「マスター久し振りです。ウィスキーロックで。」

その店は以前勤めてた会社の先輩に連れてきて貰ってからというもの俺のお気に入りの店で、プライベートで友達とご飯に行った時とかは必ず最後に一人で立ち寄るお気に入りのコースになってる。

ここはとても落ち着いた雰囲気だし、常連客も俺みたいに一人で静かに飲みたいって感じの人が多い。

今日は時間も少し早いっていうのもあるけど、お客さんの数もまだ疎らだ。

ふと、カウンターの奥に目をやると、後ろ姿しか分からないけど男性が二人並んで座ってた。

 

それにしても奈緒ちゃんの突然の告白には驚いた。あれって本気だって言ってたけど本当なんだろうか?多分酔っ払ってたからだと思うけど・・・

明日からどんな顔して仕事したらいいのか。仕事は仕事だもの。そういう話の展開に持っていかなきゃいいだけの事か。

だけど、しなくてもいい俺の身の回りの世話、あれって俺に気が有るからやってた事なの?

ううーっ、もう考えたくないな。

「マスターお代わり下さい。」

「大野さん、ペース早いですけど何か有りました?」

「なんか酔えない・・・」

「まぁ、そういう日も有りますよね。」

「マスター告白されたことある?」

「ええっ?告白?大野さん、告白されたんですか?」

「相手の子、酔ってたんだよね。真に受けない方が利口だよね?」

「大野さんは、その方の事お好きなんですか?」

「分かんない。嫌いじゃないけど好きとかでもない。」

「フフフ・・・大野さんは癒し系ですからねぇ。女性も放っておけないでしょうね。」

「癒し系?そうかなぁ。おいらはガツガツした肉食系だと思うけど。」

「基本的に男は皆そうじゃないですか?ただ、内面はどうであれ、大野さんの場合は見た目が癒し系だから。」

「んふふっ、なんかそれって見た目で騙してるみたいじゃん。」

「はははっ。恋愛なんて最初は騙し合いみたいなものです。女の子だって最初はデートに気合入れてオシャレして来るけど、慣れてくればすっぴんですら平気になるでしょ?それと似たようなことですよ。」

「マスターの意見は大人だから勉強になる。」

と、そんな話をしていたらカウンターの奥の二人が何やら立ち上がって揉めてる様子。静かな店内だから、その声がなかなかのボリュームでこっちにまで聞こえてきた。

「待って!俺の事騙してたの?酷い!」

「はっ?だって今お前は俺の誘いをハッキリと断っただろう?だからこの話は無かったことにしようと言ってるだけだ。」

「待てよ。最初からデビューなんてさせる気は無かったってことじゃないの?」

「これはとんだ言い掛かりだな。お前はもう少し賢い男だと思ってたけど。いまどき楽して儲かる仕事なんて何処にも無いの分かってるだろ?」

「そもそもあなた、本当に音楽プロデューサーかよ?それ自体怪しいじゃない。」

「悪いが、往生際の悪い子犬の相手はしないことに決めてるんだ。俺は先に帰る・・・」

「待てよ、話はまだ終わってない!」

デビュー、音楽プロデューサー、このワードだけでも何か胡散臭いのがこの俺にも分かる。

「離したまえ。他の客にも迷惑が掛かる。」

「ふざけんなっ!」

バシッ。青年が中年男性の頬を平手打ちした。これは、なんかヤバそう。

「コイツ、調子に乗りやがって!」

次は中年男性が青年の襟元掴んで拳を振り上げた。俺は咄嗟にその中年男性の振り上げた拳を掴んで止めに入ってた。

「痛たっ・・・は、離してくれ。」

「暴力は良くない。」

「あんた誰だよ?」

「見りゃ分かんだろ?客だよ。事情は分かんねえけど、暴力は良くない。」

「こいつが先に手を挙げたんだ。あんただって見てただろ?」

「見てたけど、でもやっぱり暴力で解決しちゃダメだって。」

「ふんっ。お騒がせしてすまなかったな。マスターお勘定。」

その中年男性はきまり悪そうにマスターに支払いを済ませると、その場を逃げるように立ち去った。

「ちぇっ、何だよ。余計な事しやがって・・・」

青年は乱れた衣服を直しながら再びカウンターに腰掛けた。

ん?その声、その顔に何処か見覚えが・・・誰だっけ?思い出せない。俺も頭を捻りながら元の席に腰を下ろしたその時・・・

『あーーーっ!』

俺達は二人同時に思い出してお互いを指差して叫んでた。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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