この指とまれ
第14話
出張から戻ってその日に歓迎会というのはさすがにキツイ。
だけど、それぞれ仕事が詰まってるからどのタイミングでやっても
誰かに必ず皺寄せが来るのは毎度の事だから仕方ない。
個人的な飲み会なら断れるけど、歓送迎会となるとそうもいかない。
相葉君が予約してくれた会社の近くの居酒屋でその歓迎会は行われた。
うちの会社は至って小規模だから、全員参加しても30名弱と少数だ。
その日も体調不良で休んでた一人を除いて全員参加だったから
3時間くらいその店を完全貸し切りにする。
18時半過ぎ位から、ぞろぞろと会社の連中が居酒屋に集まって来た。
「あ、居た居た!大野さーん、こっち、こっち!」
店の中に入ると、奥の席で翔ちゃんが俺の事を呼んだ。
「おおーっ、何?翔ちゃんも来たの?」
「今日予定されてたクライアントの面会がキャンセルになったんだよ。
せっかくならたまには顔出しておこうと思ってさ。」
「そうなんだ?珍しいよね。翔ちゃんがこういう飲み会に来るの。
畠山さんの送別会も来れなかったじゃん。」
「そうなんだよね。彼女には個別でお祝い渡す事しか出来なくて
申し訳なかったよ。」
「んふふふ。何だかんだおいらも翔ちゃんと飲むの久し振りだよ。」
「あー確かに最近飲んでなかったね。あっ、そうそう、宮古島どうだった?」
「あっ!そうだ。ねえ?下見の為の予算足りなかったのって本当なの?」
「え?」
「おいらビックリしたよ。ホテルに着いてチェックインしたら
ツインルームの鍵渡されてさぁ。」
「あっ・・・ゴメンゴメン。先に言っておけば良かったんだけど
俺もバタバタしてて言うの忘れてたんだよ。」
「勿論、今回だけだよね?」
「えっ?今後もだよ?」
「な、何で?今までは何人で泊まろうと宿泊費ちゃんと出てたじゃん。」
「今度その事もゆっくりあなたに話さなきゃと思ってたんだけど、
なかなか時間が取れなくて。近々ね、業務拡張の計画を立ててるんだよ。」
「業務拡張?」
「うん。今話すと長くなるから詳細はまた追って説明するけど、
その為に今からは経費削減を皆に協力して貰わないといけなくて。」
「へぇ・・・何かよく分かんないけど・・・経費削減で相部屋ってこと?」
「うん。その為に畠山さんの後任には男性を選んだのもあるんだよ。」
「で、でもさぁ・・・」
「えっ?大野さん、あっちで何か有ったの?」
「そんな大したことじゃ無いけど・・・」
翔ちゃんと話してる途中で会社のスタッフ全員が集まったので
風間君の司会進行でニノの歓迎会が始まった。
「それじゃあ、まずは代表の櫻井さんにひと言お願い出来ますでしょうか?」
「えー、皆さんお疲れ様です。多忙極める最中ではありますが
この度、寿退社された畠山さんの後任と言いますか、新しく仲間入りした
二宮君の歓迎会ということで、今夜は大いに交流を図る意味で
楽しく盛り上がって頂ければと思います。」
ニノの簡単な自己紹介と挨拶、乾杯を終えてその後は無礼講で
それぞれが好きな様に食べて飲んでお喋りを弾ませた。
俺は終始翔ちゃんと同じテーブルの席に座り、
二人で仕事とは関係ない話をしながら楽しく酒を飲んでいた。
俺らの隣のテーブル席には、相葉君達が座っててニノもその中に居た。
何を話してるのかは分からないけど、時々楽しそうな笑い声も聞こえて来てた。
ちょっと気になったのが、ニノと風磨が隣同士に座ってた事だ。
「ねぇ?翔ちゃん?」
「ん?」
「あのさぁ、ちょっとこれ相葉ちゃんから聞いたんだけど・・・」
「うん・・・」
「風磨ってさ、最初企業広告イベントのチームだったじゃん。」
「ああ・・・そうだけど?」
「おいらのチームになったのって、風磨が翔ちゃんにそうしたいって
わざわざ頼んだって聞いたけど、その話ってホントなの?」
「あ、うん。そうそう・・・」
「そうそうって・・・」
「何かマズい事でも有った?あいつは若いけど細かいことに気が利くし
仕事の段取りも早くて周りの信頼も厚いからあなたの仕事に十分戦力になると思ったけど。」
「どうしておいらのチームが良いのか聞いてる?」
「大野さんと是非仕事がしたいんだって。」
「そ、それはどういう意味だと思った?」
「ええっ?どういうって・・・普通に尊敬してるって意味でしょ?」
「それだけ?」
「そ、それだけじゃないの?」
「本当かどうか分かんないけどさ、相葉ちゃんの話ではね、風磨おいらの事が
好きなんだって。」
「はっ?何それ?」
「別に告られたとかじゃないんだ。でもさ、おいらがニノの指導に就いた時点で
めちゃめちゃ機嫌が悪いっていうか・・・」
「うそ?マジで?」
翔ちゃんは隣で飲んでる風磨の顔を数回チラ見して目を丸くした。
つづく