この指とまれ 17

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この指とまれ

第17話

 

 

それから二日後の日曜日の午後、俺はいつものようにスケッチブックを片手に公園へ出掛けた。
そしていつもの場所のベンチに腰掛けて、噴水が主役の絵を描き始めた。
カズ君がいつ現れてもいいように24色の新品の使わない色鉛筆のセットを手元に準備してた。
1時間ほど夢中で絵を描いていたら、遠くから俺に手を振りながらカズ君が走ってやって来た。

「おいたん!」
「おおー、やっぱり来たかぁ。」

俺がその場から立ち上がると、カズ君は満面の笑みで俺の足に抱き着くから
そのままカズ君を抱き上げて同じ目線で話掛けた。

「カズ君、今日はパパは?」

そう尋ねると、小さい指で噴水の方を指差した。
目線をそちらに向けると、ニノがゆっくりと会釈しながらこっちに向かって歩いて来るのが見えた。

「かずゆき、本当に居たねぇ。・・・どうも。」
「やぁ。来ると思って持って来たよ。」

そう言って色鉛筆を拾い上げてニノに渡した。

「イイんですか?」
「勿論。だって約束したもんな、カズ君。」
「ありがとうございます。良かったな、かずゆき。」
「ん、あーとお。」
「んふふっ、どういたしまして。」
「本当に毎週来てるんだ。」
「うん、これを描き上げるまではね。」
「ちょっと見せて貰えますか?」
「え?あ、うん、いいよ。」
「鉛筆画なのにめっちゃリアルだな。」
「そう?」
「めちゃめちゃ上手いですよ。プロ顔負けです。」
「褒め過ぎだよ。」
「勿体ないな。十分あなたこれで食っていけるのに。」
「んふっ、ありがと。」
「あっ、そうだ。今度その絵を描き終わったら、かずゆきを描いて貰えませんか?」
「ええっ?カズ君を?」
「ええ、是非。あ・・・人物画は描かないとかじゃないですよね?」
「うん、人物も描くよ。」
「それじゃ是非描いて下さい。お金は払いますから。」
「お金なんていいよ。おいらあくまでもこれ趣味なんだから。」
「そういう訳にはいかないですよ。バッチリ手を抜かないで描いて欲しいから。」
「フフフッ・・・お金貰わなくたって手は抜かないよ。」
「本当に?」
「うん。おいらなんかで良ければいいよ。描いてあげる。」
「うわぁ。ありがとうございます!写真も良いけど肖像画も結構味が有りますよね。
ちゃんと御礼はさせて貰いますよ。」
「いいよ、マジで。おいらも子供描いたことないから楽しみ。」
「ってか、かずゆきは大野さんの事本当にお気に入りだな。
さっきからずっと抱っこされちゃってる。」
「人見知りしないんだね?でも気を付けないと誰にでも愛想よく着いてったりしたら
悪い大人も沢山居るんだからね。」
「ホント、目を離すと直ぐどっかに行っちゃうし、好奇心旺盛で大変なんすよね。」
「そういう時期なんじゃない?可愛いよね。ニノによく似てる。」
「そうでしょ?小さい頃の俺に瓜二つなんです。」
「んふふふっ。それじゃ将来はパパみたいに男前になるな。」
「あ、大野さん?良かったら家でお茶でも飲んでいきませんか?」
「え?」
「うち、直ぐそこなんで。」
「でもぉ・・・」
「今、誰も居ないんで遠慮はいりませんよ。」
「そ、そうなの?」

俺はニノから誘われてニノの自宅へと招かれた。

「ここです。」
「あれ?ここ、俺んちから直ぐじゃん。」
「だから言ったでしょ?歩いて行ける距離だって。さ、どうぞ。散らかってますけど。」
「あ、うん。それじゃお邪魔します。」

ニノの自宅は二階建ての小さい庭付きの一戸建て。
去年から建設中だった新築物件で、ここの前を通るたびに
どんな人が住むんだろうと想像していたけど、まさか同じ会社の従業員だったとは。
靴を脱いで玄関を上がると、散らかってるどころかめちゃめちゃスッキリ部屋は片付いてた。

「どうぞ、好きな所に座ってて下さい。コーヒー淹れますから。」
「あ、うん。悪いね・・・」

ニノがコーヒーを淹れてくれてる間、俺はカズ君の子守りをした。
数分でニノがリビングに戻って来て、テーブルの上にコーヒーの入ったマグカップを置いた。

「どうぞ。」
「あ、ありがとう。ニノ?」
「はい?」
「奥さんは?今日はお出掛けかなんかか?」
「え・・・」

そう尋ねてみたら、ニノの表情が一瞬固まった。

 

 

つづく

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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