この指とまれ 21

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この指とまれ

第21話

 

 

そして、夕方就業時間を過ぎて俺はニノの車で再び自宅まで送って貰う事にした。
若干面白がってる感じは否めないけど、同性から好意を抱かれるって初めての事で
しかもどちらかというと凄い積極的に誘って来る風磨に対して
俺は全くどうしたらいいか分かんないし自分から協力すると言ってくれてるんだから
ちょっとは彼の意見も参考にさせて貰えればと、その程度の感覚で
彼の話に耳を傾けた。

「ようは、付き合ってる人が居るってあいつに伝わればいいわけですよ。」
「うん・・・でもおいら芝居とか嘘は苦手なんだよ。」
「そうでしょうねぇ。見てれば分かります。」
「多分そんなの嘘だって直ぐにバレちゃうと思う。」
「もちろん、架空の人物を持ち出しても信じて貰えないですよ。でもね、安心して下さい。
あなたと俺は宮古島のホテルで関係持っちゃったかもしれない、って疑惑を
彼の頭の中に一度はインプットさせて有るんです。」
「あっ・・・飲み会の時か・・・」
「間違いなくあれで彼は一度動揺してました。」
「うん・・・確かにあの後直ぐに帰っちゃったもんな。
 もうさ、あの時翔ちゃんまで信じちゃって大変だったんだからね。」
「はははっ・・・でもそれってある意味凄くないですか?」
「えっ?」
「誰が聞いても本当なのかな?って思わせる出来事って話じゃないですか。」
「え、あ、まぁそう言われてみれば・・・」
「でしょ?これがもし他の人が聞いてもそりゃぁ無い無いって信じて貰えないなら
私の協力なんてなんの効果も発揮しないわけですよ。」
「協力って一体どんな事するの?」
「今からそれを説明しますよ。あ、でもそろそろ着いちゃいますね、あなたの家。」
「あ、良かったら上がってく?」
「え?良いんですか?」
「だって話が途中過ぎて気になるし。」
「分かりました。それじゃちょっとだけお邪魔させて貰います。」

アパートの来客用の駐車場に車を停めて、初めてニノを部屋に上げた。

「お邪魔しまーす。」
「狭いし散らかってるけど・・・」
「そうかなぁ。一人暮らしのわりにはなかなか綺麗な方ですよ?」
「コーヒーでいい?」
「え・・・あ、何かすみません。」

キッチンでお湯を沸かしてコーヒーを淹れてる間
ニノはキョロキョロと俺の部屋を落ち着かない様子で見まわしてる。
とくに壁に飾ってる何枚かの絵に顔を近付けて興味津々の様子だ。

「これってあなたが描いたんですよね?」
「あ、そうだよ。」
「やっぱうまいな・・・」
「んふふっ。ありがと。」
「そうそう、かずゆきの肖像画もホントお願いしますよ。」
「あっ、そうだったね。うん、近いうち必ず描いたげるよ。」

コーヒーを注いだマグカップをテーブルに運び早速本題に入った。

「で?どんな協力してくれんの?」
「あ、そうそう。その話でしたね。まぁ、言うても簡単な話です。
俺があなたと付き合ってる事にすればいいだけの事ですよ。」
「つ、付き合ってるって・・・」
「もうあいつには根回し出来てる訳だから、下手な小細工は要らないんです。
宮古島で俺達は関係を持ってしまいました。その後も真剣に交際続けてます。
これをあいつが信じるまで装っていればいい事です。」
「で、でも・・・ニノは結婚してるわけだから・・・」
「不倫・・・ってことですよね。」
「ふっ、ふっ、不倫?」
「そんなに驚かなくても。でも不倫って響きの方が何かエロいですね。」
「そ、そんな芝居だとしても会社でたちまち噂になるよ。翔ちゃんはそんな事
会社の連中に話さないだろうから、噂にまではなって無いけどさ、
もしも風磨が会社の誰かに喋ったりしたらどうすんの?ニノにも間違いなく迷惑が掛かるじゃん。」
「ええっ?だって別に本当に付き合ってるって訳じゃ無いし、まして仮に本当に
あなたと俺が付き合ってますってなっても、悪いけどこれ不倫じゃないですから。」
「だ、だって・・・」
「あの・・・これは大野さんにだから言いますけど・・・」
「え?」
「俺は子持ちは事実ですけど、今現在はフリーなんで。」
「そ、それって?」
「俺、実はバツイチなんです。嫁とは別れました。」

驚いた。夫婦喧嘩して奥さんは実家に帰ってるくらいに思ってたけど
それよりももっと事態はシビアな話だった。
既婚者子持ちだと思い込んでいたニノは、なんとシングルファーザーだという事が
ようやくこの時明らかになった。

 

 

つづく

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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