この指とまれ 3

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この指とまれ

第3話

 

 

「かずゆき、おいで。」
「ヤァだ。おいたん、いいの。」
「ええっ?」

その子は必死で俺にしがみ付くようにして身を隠そうとした。

「えっと・・・何かすみませんね。うちの子が・・・」
「あ、いや・・・」
「あれ?」
「えっ?」
「あの・・・もしかして、あなた色鉛筆の・・・」
「え・・・」
「かずゆきに色鉛筆をくれた人ですよね?青色の・・・」
「あ、うん・・・そうだけど。」
「やっぱりそうなんだ。かずゆきったらね、よっぽど嬉しかったのか
あの色鉛筆を握りしめたたまんま眠ったんですよ。」
「へ、へえ・・・」
「よく来られるんですか?ここ・・・」
「あ、うん。うちこの近所なんで。」
「うちも直ぐそこなんですけど、まだ先週越して来たばかりなんですよ。」
「そうなんだ。」
「さぁ、かずゆき帰るぞ。おじさんの邪魔しちゃ駄目じゃん。」
「ヤァだ。」
「んふふふ。カズ君、おいたんまた来るからさ、今日はパパと帰りなよ。」
「ヤァの!」
「かずゆき、いい加減にしろよ。」
「カズ君、おいたん約束するよ。次のお休みも必ずまたここに来るよ。
そん時、カズ君にちゃんとした色鉛筆持ってきてあげるから。
だから今日はお利口だからパパとお家に帰りな。」

そう言って聞かせたところで意味も分かっているのかどうかも俺には分かんないけど
なんとかその子は諦めて父親と帰る気になったみたいで、ゆっくりと俺から離れて
父親と手を繋いだ。

「毎週いらっしゃるんですか?」
「あ、うん。今ここの風景画描いてるんで・・・お天気次第ではあるけど
来週もこの時間来てるから、良かったらまたカズ君連れて来てよ。」
「え・・・でも・・・」
「今度はちゃんとした色鉛筆のセット、プレゼントするよ。約束したから。」
「そんな、いいですよ。」
「ダメダメ!子供との約束大人が破ったりしちゃ絶対ダメだよ?」
「でも・・・」
「うちに使ってないやつ沢山有るから気にするほどの事じゃないよ。」
「そこまでおっしゃるなら・・・」
「うん、必ず連れて来てあげて。」
「ありがとうございます。それじゃ・・・」
「カズ君、またね。」

俺は帰って行く父親とカズ君の後ろ姿を見送った。
しかし、随分俺気に入られちゃったもんだ・・・
どちらかというと、小さい子って扱い慣れないから苦手なんだけどな。
あんなに懐いてくれると流石に可愛い。
知らなかったけど、実は子供ってちょっと心身疲れてる時とかすげえ癒されるのかもしんない。
結婚に興味は無いけど、子供はいいな、なんて一瞬思ってしまう。

そして、その週明け・・・
会社に出勤した俺は、翔くんに呼ばれてミーティングルームに向かった。
なんでもこの前翔君が話してた畠山さんの後任として採用された新人君が今日から出勤して来てるらしい。
ミーティングルームの扉を開けたら、スーツ姿の翔くんが本日も爽やかイケメンって顔してホワイトボードの前に立っていた。
それから俺に向かってこっち、こっちって手招きした。

「大野さん、紹介するよ。彼がこないだ話してた新入りの二宮くん。」
「二宮と言います。はじめまして。宜しくお願いします。」

その男性は振り返りながら深々と俺に頭を下げた。

「こちらこそ、宜しく。大野です。・・・え?ああっ!」
「あああっ!!」
「えっ?何?どうしたの?」

対面した俺達はお互いを指差して思わず叫んでしまった。
それもその筈・・・
彼は忘れもしない、先日の公園で会話だって交わしたあのカズ君の父親だったからだ。

「な、何?もしかしてあなた達知り合い?」
「えっ・・・あ、うん・・・」
「こんな偶然って有るんだ。」
「ほ、ホント・・・ビックリ。」
「そうか、そうか。知り合いだったのなら話は早いね。
まぁ、とにかくそういうことだから、大野さん、二宮くんの指導は宜しくね。」
「う、うん・・・」
「二宮くんは今日から大野さんの企画のチームの下で働いて貰うから。
分かんない事はこれから全部大野さんが教えてくれるから。」
「あ、はい。」
「それじゃ大野さん、俺はこれからクライアントと打ち合わせなんだ。
もう時間無いから悪いけどあと頼んだよ。」
「え?あ、うん。」

翔くんはそう言って急ぎ早にミーティングルームを出て行った。
俺はあまりの驚きに何から話していいのか、戸惑ってしまい

「と、とにかくおいらコーヒー淹れて来るから、適当に座って待ってて。」
「あっ・・・コーヒーなら僕が行きましょうか?」
「ううん、まだ来たばっかだし勝手も分かんないだろ?いいよ、待ってて。直ぐ戻るから。」

 

 

つづく

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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