この指とまれ
第35話
「それでね・・・大野さん、大野さん?ちょっと聞いてる?」
「おっ?えっ???」
「もう、何考えてたの?人が大事な話してんのに。」
「ご、ゴメン、ゴメン。えっと、分かってるって。業務拡張の話だよね?」
「ねぇ、ホントどうしたの?」
「え?な、何が?」
「最近何か悩みでも有るでしょ?」
その日、俺は翔ちゃんと久し振りに仕事帰りに飲みに出掛けてた。
以前少しだけ聞いてた会社の業務拡張について詳しく話しておきたいと
珍しく翔ちゃんの方から誘ってくれたからだ。
俺は会社を立ち上げた当初から一緒に苦楽を共にしてきたこともあり
会社の何か決める時は、何時もこうやって俺にも意見を求めて来る。
だけど、今の俺の頭の中はニノの事で一杯。
会社ではなんとか普通に接してるけど、
ニノの事を完全に意識してしまって、正直仕事に身が入らない状態だった。
現に今も翔ちゃんの話は上の空。
ニノの事を今後俺はどうしたらいいのか、どうしたいのか・・・
そればっかり考えてしまう。
「な、何で?」
「何でって、この頃あなた何時も大きな溜息ついちゃってるでしょ。
何か悩んでる事くらい見てりゃ分かるよ。」
「そ、そうかなぁ。」
「俺なんかで良ければ話聞くよ?」
「でも・・・業務拡張の話は?」
「それはまた今度でもイイよ。ね?何かあったでしょ?」
「ううっ、翔ちゃん・・・聞いてくれる?」
「うん、聞くよ。」
「あのさ・・・」
「うん・・・」
「やっぱ、いいや。」
「ちょっとぉ、言い掛けてやめなさんなよ。」
「だってこれ仕事以外の個人的な事だもん・・・」
「個人的な事でもいいよ。俺達古い付き合いじゃない。何遠慮なんかしてんの?
このまま悩みを抱えたままではまともに仕事なんか出来ないよ?
ちゃんと真面目に聞くから話してみてよ。」
「う、うん・・・実はさぁ、おいら好きな人が出来たんだよね。」
「やっぱそっちの悩みか。」
「うん・・・」
「で?誰よ?俺が知ってる人?」
「うん・・・」
「益々気になるよ。一体誰よ?あ、ま、まさか風磨?」
「違うよ。」
「で、でしょうね・・・」
「ニノ・・・」
「えっ?ニノって・・・あの二宮君?」
「うん。」
「う、うんって・・・あのさ大野さん、分かってます?
二宮君は確かに可愛い顔してますけど、彼は男性ですよ?」
「そんな事、言われなくても分かってるよ。」
「そ、そうだよね。でもそれっていつから?まさか宮古島?」
「そうじゃないよ。あん時はマジでおいら何にもしてないよ。」
「えっ?まさかその後何かしたの?」
「してない・・・っていうか出来ない。」
「ちょ、ちょっと整理しましょう。あなたは風磨からは確かに言い寄られてたけど
同性同士の恋愛には抵抗を感じてたと思ってたけど、そうじゃなかったのね?」
「おいらもこんな気持ちになったの初めてなんだよね。」
「もしかしてもう大野さんの気持ちは打ち明けたんですか?」
「うん。」
「おおーっ、で?返事は何て?」
「お友達だって。」
「そ、それってまたソフトなお断りってヤツだな・・・」
「そもそも翔ちゃんにも責任あんだからね?」
「えええっ?俺のせいなの?」
「だって、以前翔ちゃん俺にニノがヤキモチ妬いてるなんて言ってたやん。
妙にあれから意識しちゃってさぁ・・・」
「だっ、だって、あれは下見の為の出張を二宮君が急に行きたくないとか
言い出したからだよ。」
「いやぁ、そうなんだよね。おいらもてっきり風磨に対して妬いてるとばかり
思い込んでたんだわ。」
「そうじゃなかったんだ?」
「おいらの好きとニノの好きは違うって言われた。」
「ま、まぁお友達と思ってるのならそうでしょうねぇ。」
「でもね、友達から恋愛に発展することなんて普通にあるでしょ?」
「そ、それはそうだけど・・・」
「おいら、どうしても諦めきれないんだよね。」
「まぁ毎日顔を合わせる訳だから無理もないよね。」
「友達からならまだ脈有ると思う?」
「えええ?どうだろう?でも、彼確か子供が居たよね?」
「うん、カズ君って男の子。これがまたニノに似て可愛いんだよ。」
「メロメロじゃないっすか。」
「だけど、ニノはこの先再婚も考えてるって言ってるんだよね。」
「再婚ねぇ・・・」
「それっておいらじゃ駄目なのかなぁ・・・」
「えええええ???マジで言ってるの?大野さん?」
「何で?好きだったら普通じゃないの?」
「驚いたなぁ・・・まさか大野さんがこんな風になるなんて・・・」
「自分でもビックリだよ・・・」
「二宮君はあなたに対しては友達以上の感情を抱けないと言ってるの?」
「いいお友達として付き合いたいんだって。
ねぇ、どうしたらおいらの事、恋愛対象としてみてくれるようになる?」
「そ、それを俺に聞かれても・・・」
「何でも話し聞いてくれるって言ったじゃん。」
「それはそうだけども・・・あっ、そうそう!良い事思い付いたよ。」
「えっ?何?」
「二宮く・・・あーもうニノで良いよね?面倒くさいわ。
この際だからニノの正直な気持ち確かめてみたらどう?」
「確かめるって・・・どうやって?」
「俺にいい考えが有る。まぁ、ちょっと飲みながら話そうよ。」
それまで眉間に皺寄せて話を聞いていた翔ちゃんが
何か思い付いたらしく急にテンション高くなって、
テーブルの呼び出し鈴を鳴らし店の店員を呼ぶと
お互い空になったビールのお替りを頼んだ。
つづく