この指とまれ
第40話
side nino
久々飲みに誘われた俺は、一度はあの人の事を突っ撥ねておきながら
俺は実はめちゃめちゃその日を楽しみにしてたんだ。
あれからずっとどうしていいのか分からずに自問自答を繰り返してるうちに
バツイチの何がいけない?子供が居たら何がマズい?って考えるようになった。
やっぱり正直に大野さんに自分の気持ちを話そうとまで思ってた。
ところが、実際に蓋を開けてみればまさかの大野さんからの恋愛相談。
もう、頭の中が真っ白になった。
代表の事を好きになったって話、最初は本当かなって疑ったりもしたけど
仮にそれが嘘だろうが本当だろうが、俺があの日大野さんから抱き締めらた時
素直に全てを受け止めてさえいれば・・・
でも、今更そんなこと言ったところでもう手遅れ。
拒んでしまったのは俺の方なんだから。
時間は決して止まってはくれないし、人の心だって変わらない保証なんて何処にも無い。
後悔するくらいなら、その瞬間を大切に生きなきゃなんない。
こんなことになってからそれに気付く俺も相当バカだけど・・・
俺の話を、やっぱり好きだって事を、もしも俺が先に伝えてたら
あの人は代表の話を俺にしただろうか?
もしかすると、ゴメンって断られた後にもう実は好きな人が居るって
打ち明けられたかもしれない。
それはあまりにも惨めでカッコ悪いから、結局俺の話は後回しで良かったのかも。
話の流れで俺にも好きな人が出来ましたって言ったけど
俺は大野さんの事が本気で好きになったんだから、べつに言ってることに嘘はない。
ただ、相手の名前は伏せただけだ。
それがあの人に伝わったとは勿論思ってないけど。
何で俺があの人と代表の恋愛を取り持ってやんなきゃなんないのかは
イマイチ納得いかなかったけど、あの場では嫌でも
了承する以外に俺の選択肢はなかった。
それから二日後の週明け、俺は重い足取りで会社に出勤した。
「おはようございます。」
「お、おはよう。」
大野さんは俺にあんなことを頼んだからか、気まずそうにしてて
俺の顔をまともに見ようとはしない。
「今日、早速話してみますね?」
「えっ・・・」
「代表に・・・」
「あっ、あー、あれね。うん、宜しく頼むよ。」
代表が大野さんの気持ちを受け入れたと同時に俺は即終了ってわけだ。
もう、どうあがいたところで大野さんの気持ちは俺の方を向いてくれてないのは確かだ。
キッパリとあの人のことは忘れる!自分にそう言い聞かせて気合を入れると
俺は立ち上がって、代表の部屋へと向かった。
代表の部屋の扉を軽くノックすると中から代表の声で
「あっ、はい。どうぞ~。」
と、返事が返って来たから俺はゆっくりドアの前で深呼吸をして
その扉を開けて中に入って一礼した。
「失礼します。」
「お、ニノ?どうかした?」
「お話が有るんですけど、少しだけお時間頂いてもいいでしょうか?」
「話?あ、まぁそこ座って。」
俺は応接用のソファーに座るように促されてそこに腰を下ろした。
代表も、俺と対面に向き合って座った。
「それで?話って?」
「あ、はい。話は二つ有ります。」
「ふ、二つ?」
「先ず、一つ目なんですが・・・突然なんですけど、俺・・・
会社辞めさせて頂きます。」
「えっ?えええっ?なっ、何で?」
「せっかく採用して貰っていながら、こんな事言ってすみません。
でも、俺どうもここの仕事自分に合ってなかった気がします。」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ?はい、ああそうですかってはいかないよ?」
「勿論、それは分かってます。」
「二宮君は子供さんも居るじゃない?辞めてこの先どうするの?」
「まだ考えてません。」
「考えてないって。とにかくその話はちょっと待ってくんない?
少し時間を掛けて話さないと、あまりにも突然過ぎて・・・」
「はぁ・・・それじゃもう一つの話を・・・」
「あ?ああ・・・うん、そっちを聞こうか。」
「大野さんが・・・代表と付き合いたいそうです。」
「は、はああ?」
「代表の事、好きだって言ってました。」
「えっ?ふざけてるの?」
「いいえ。あの人は真剣だと思います。」
「ちょっ、待ってよ。どっちもパンチが有り過ぎてついていけないんだけど。」
「それじゃ僕は伝えましたよ?」
「ちょっと待ってよ。それ伝えられても俺は対応できないよ?」
「えっと、それはどういう意味ですか?」
「付き合うとか絶対無理よ。だいいち俺にも好きな人はいるからね。」
「そ、そうなんだ?」
「いやいや、大野さんはあくまでも親友よ?それ以外の感情は俺には無いよ。」
「そ、それって・・・」
「えっ?」
「いや、何でもないです。」
「とにかく気持ちは有難いけど、大野さんのその気持ちには
流石に応えられないよ。」
それって俺があの人を拒否した時に咄嗟に出た言葉と一緒だと思った。
これ、俺が全部伝えなくちゃなんないのか。
困ったな・・・
つづく