この指とまれ
第45話
ニノからの突然過ぎるキスだった。それは5秒くらい触れて直ぐに離れた。
俺はされるがままでビックリして全身が固まったままだ。
ニノは俺の目を上目づかいにジッと見て、その後ニッコリと微笑んだ。
「俺の話はそれだけなんで、そろそろ戻りますね。」
「えっ?あ、あの・・・」
「何?」
「い、今のホントなの?本当に好きな人って、その・・・おいらなの?」
「そうですよ。」
「そ、それじゃ、これからおいらと付き合ってくれるの?」
「はい。」
ま、マジかよ・・・何か夢でも見てるみたいだ。
そうだよ、これは夢なのかも・・・
俺はその場で自分の頬っぺたを思いっきり抓ってみた。
「いってえっー」
「え?何してるんですか?」
「いや、これ夢なんじゃないかと思って。」
「アハハ・・・現実ですよ。」
だって嬉しくてまだ何か信じられない。
今日から完全に両想いってことでいいんだよな?
え?待って・・・
でも付き合うって具体的にはどういう事なんだろう?
まさかこういう展開になるなんて思ってもみなかったものだから
こういう時って何をどうしたら良いのか、実際にそうなってみると
サッパリ分からないのが現実・・・
頭の中であれこれ考えているうちに、あっという間に
自分のアパートの前に到着した。
「すみませんでした。遅くなって。」
「ちょ、ちょっと寄ってく?」
「ううん、もうこんな時間だし・・・また別の日にでも。」
「そ、そうか・・・うん、それじゃまた。」
「それじゃ、おやすみなさい。」
「おやすみ・・・」
車を降りて、車が見えなくなるまで名残惜しくニノを見送った。
本当はもう少し一緒に居たかった。
でも、カズ君のことも気になるだろうし、遅くまで引き留めるわけにもいかない。
俺は部屋に戻ると、居間に寝転がってさっきまでの事を思い出していた。
そういえば、会社辞めること言ってたけど、あれはあくまでも
俺と翔ちゃんが付き合う事になったらという前提での決断だろうから
多分、もうそれは無いだろうな。
だけど将来はちゃんと俺がニノの面倒をみてあげなきゃなんないよな。
それが男としての責任だと思うし。
それ考えると、やっぱり翔ちゃんが言ってた新しい事業の代表になる話は
キチンと前向きに考えるべきかな、とまで思い始めた。
それにしても、さっきのニノのキスが頭から離れない。
あんまり当然だったから、自分ではどうすることも出来なかったけど
唇がまだその感触をシッカリと覚えてて、その物足りなさに切なく溜息が出た。
あ、そうだ・・・
翔ちゃんに一応連絡は入れておかないと。
「もしもし?翔ちゃん?遅くにゴメンね。」
「ああ、大野さん?どうした?何かあった?」
「うん、それがね・・・ゴメン、おいら全部ニノに本当の事話しちゃった。」
「ええええっ?な、何で?」
「う、うん。実はニノから告白されてさ。」
「ええええっ?ほ、本当なの?」
「うん。でね、誤解されてるまんまじゃ、話がややこしくなるから
直ぐに本当の事話した方が良いと思って。」
「へえ・・・やっぱりニノはあなたの事が好きだったんだ?」
「うん、おいらもまだ信じられなくて。」
「良かったじゃないですか。そりゃおめでとう。」
「ホントに色々心配掛けてゴメンね。」
「いやいや、あなたが幸せなら俺も嬉しいよ。」
「それから、仕事辞めるって話も多分もう大丈夫だと思うよ。」
「そうか・・・それなら良かったよ。」
「一応それだけ伝えとこうと思って・・・」
「そっか、そっか・・・大野さん、頑張ってね。」
「う、うん・・・ありがとう、翔ちゃん。」
頑張るって何を?って思ったけど、それ以上は聞かなかった。
なんだかんだ面倒な小細工が本当に必要だったかは分からないけど
結果的にお互いの気持ちが通じるキッカケになったのは事実だから
やっぱり協力してくれた翔ちゃんには感謝でしかない。
ともあれ、俺達はまだ始まったばかり。
今後どういうふうに付き合っていくのか、具体的な事は何もまだ見えないけど
今夜はただとにかく幸せの余韻に浸りながら心地良く眠りに就いた。
つづく