この指とまれ 46

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この指とまれ

第46話

 

 

そして、その翌日会社に出勤すると、風磨が俺の顔を見るなり
俺の席に走り寄って来た。

「おはようございます。」
「あ、おはよう。」
「さっき、二宮さんから電話が有ったんですけど・・・」
「え?ニノから?」
「ええ。何でも子供さんが急に発熱したらしくって、病院に連れてくから
少し遅れて来るそうです。」
「え?発熱?」
「やっぱり男手で独りで子育てって大変ですよねぇ。
二宮さんも早く新しい嫁さん探したら良いのに。
再婚するなら子供が小さいうちにしないと、物心ついてからじゃ
絶対難しいと思うんですよね。大野さんもそう思いませんか?」
「えっ・・・あ、おいら子供居ないからちょっとそういうのは・・・」
「そうですよね。」

カズ君、熱出したんだ。
そんなこと、俺に直接連絡してくれれば良いのに・・・
そう思ってスマホを取り出し確認するけど、
ニノからのメールはまったく入ってなかった。
俺が心配すると思って言えなかったのかな?

「ニノは遅れて来るって言ってたの?」
「あ、はい。」
「そうか・・・分かった。ありがとう。」

カズ君が病気なら、何も無理して来なくても良いのに。
そっか・・・俺も小さい頃は良く熱出して大変だったと
母さんから聞いたことがあるけど、子供ってそうなんだよ。
まだ免疫力が無いから色んな病気に掛かり易いんだよな。
風磨が言うのも分からなくもないけど、
ニノはもう昨日から俺の正式な恋人なわけで、
その恋人の事を幾ら何も知らないからって
好き勝手な言葉を吐かれて当然気分は良くない。
俺、相当今風磨に対して不機嫌が顔に出てたって思う。

結局ニノは始業時間から2時間近く遅れて姿を現した。

「すみません、遅くなっちゃって。」
「あ、ニノ!ちょっと、カズ君大丈夫なの?」
「え?ああ、麻疹でした。」
「麻疹?」
「はい。今流行ってるそうです。」
「傍に着いて無くていいの?もう仕事はいいから帰りなよ。」
「あ、今はちゃんと母さんにみて貰ってるんで大丈夫ですよ。」
「駄目だって。仕事よりカズ君の方が大事だよ。」
「かずゆきは大丈夫ですって。」
「で、でも・・・」

ニノは俺にはそう言うけど、絶対無理してるに決まってるんだ。

「麻疹は皆掛かる病気です。小さい頃に大野さんも掛かんなかったですか?」
「もう覚えてないよ。」
「そうでしょ?覚えてないくらい小さい時には誰だって色々と病気してるものなんです。
だけど、それで死んじゃうって事、殆ど無いんです。だから俺達もこうして
立派に大人になってるわけですし・・・」
「そ、そりゃそうだけど・・・」
「こういう病気、これからも多々発症するんですよ。
おたふくだったり、水ぼうそうだったり・・・
その度に休んでたら俺仕事とかマジでやってけないですよ。」
「う、うん・・・」
「その為に母さんに協力して貰ってるんです。心配しないで下さい。」
「そっかぁ・・・そうだよね。」
「そんなことより、今日も俺帰りは送りますね。」
「え?あ・・・うん。」

やっぱりニノはなるべく早く仕事なんて辞めて、
せめてカズ君が就学するまではしっかり育児に専念するべきだ。

「そうだ・・・名古屋の出張、他で代わって貰うか?」
「えっ?やだ。どうして?」
「だってカズ君にまた何かあったら・・・」
「大野さん?」
「えっ・・・」
「もう、いい加減にして下さい。あなたが心配してくれるのは嬉しいけど
これはあくまでも俺んちの事だから。」

余計な口を挟まないでって言わんばかりに不愉快な顔をした。

「そ、そうだな。ゴメン・・・何か余計な事言って。」
「こっちこそ、なんか変な言い方に聞こえたならすみません。
かずゆきには母親なんか居なくたって俺がちゃんと育てるって決めたんです。
勿論母さんの協力なしには無理なところも有りますけど・・・
俺、あなたに全てを背負わせようなんて全然思ってませんから。」
「そんなふうに一人で頑張る事ないと思うけど・・・」
「え・・・?」
「これからはおいらにも少しは頼ってくれていいからね?」
「大野さん・・・」
「おいら頼りないけどさ、何かニノの役に立てることあるかもよ?」
「ありがとう。でも仕事は優先するんで、心配しないで下さい。」
「う、うん・・・」

そりゃ、俺達付き合う事になったと言ってもまだ昨日今日の話だもんな。
まだまだお互いに遠慮が有るのは仕方のない事だ。
でも、俺に全部背負わすつもりはないとか言われて
何だかまだまだニノにとっては俺の存在が遠い感じがして、
ちょっとだけ虚しくなった。

 

 

つづく

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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