この指とまれ
第59話
「お邪魔しました・・・」
「ごめんなさいね。何のお構いもしなくて。
次は是非和幸君も連れて来てちょうだいね。」
「あ、はい。必ず連れてきます。」
「じゃ、また来るわ。」
俺は結婚の報告をする為にニノを連れて実家に来ていた。
ニノはかなり緊張してた様子だけど、俺が思ってた通り
うちの親は同性と結婚すると言っても特に驚かなかった。
そういう事よりも、俺が一生独身を貫くんじゃないかって
真剣に思ってたらしくて、むしろ一緒に暮らしてくれる相手が現れて
ホッとしたとさえ言っていた。
「あなたのご両親って話が分かり過ぎじゃない?」
「ええっ?そうか?いつもうちはあんな感じだけど。」
「俺がバツイチの子持ちだと言っても全然驚いて無かった。
むしろ何だか嬉しそうに見えた。」
「んふふ。特に父ちゃんなんかカズ君の話したら
ヘラヘラしてたよ。よっぽど孫が出来て嬉しいんだよ。」
「有難い事ですよ。」
「あとはニノんちのご両親だな・・・」
「うちはビックリするだろうな。」
「おいら、おばさんとは面識有るしね。きっと許して貰えるって。」
「だといいんだけど・・・」
帰りの車の中でそんな話をしていたら、ニノのスマホの着信音が鳴り響いた。
「え?誰だろう?・・・あ、母さんだ。」
「えええっ?俺らの話聞こえたのかな?」
「まさか。」
ニノは運転中だからスマホをスピーカーにして応答した。
「はーい。母さん?何?今運転中なんだけど。」
「あっ、もしもし、カズ?大変なのよ!あんた今何処?」
「えっ?もう直ぐ家だけど・・・」
「直ぐにこっちに来れる?」
「ええっ?何?どうかしたの?」
「かずゆきが・・・ちょっと目を離した隙に居なくなっちゃったのよ。」
「えっ?」
「交番には連絡したんだけど、母さん一人じゃどうしようもなくて・・・」
「わ、分かった。今から直ぐ向かう。」
大変な事が起きてしまった。
カズ君が行方不明になったようだ。
「ニ、ニノ?」
「聞いてたでしょ?あなたも一緒に来てくれますよね?」
「も、勿論。」
「急ぎましょう。」
ニノの顔色が真っ青になってるのが分かる。
「大丈夫か?」
「平気です。」
平気だと答えた声が震えてる。
「ちょっと、そこのコンビニに寄っていいか?」
「えっ?あ、うん・・・」
このままおばさんの実家に向かうのは危険だと察した俺は
コンビニでコーヒーを買って来てニノに手渡した。
「はい。まあ、一旦これ飲んで落ち着こう。」
「ありがと・・・」
ニノはそれに口を付けると、フウッーと大きく深呼吸をした。
それでも小刻みに揺れてる左足に俺が優しく手を乗せると
その手にニノも自分の左手を重ねた。
「ありがとう。もう、大丈夫だから・・・」
「カズ君、きっと見つかるよ。」
「うん・・・」
こんな時、俺が掛ける言葉なんて気休めにもなんないかも知れない。
でも、不安な時に一緒に居てあげれるだけでも少しは違うかな・・・
そしてそこから1時間位掛けて俺達はニノのお母さんの実家へと向かった。
「か、母さん!」
「あ、カズ、あら?大野さんも?」
「一緒に探してくれるって。」
「こんばんは。カズ君が行きそうな場所ってどの辺ですか?」
「かずゆきが居なくなってどの位経つの?」
「4時過ぎに居なくなったのよ。かれこれ2時間は経つかしら。」
「居なくなったのは何処でなの?」
「玄関先で遊んでたのよ。野良猫が居たからミルクを上げようって
私が台所に牛乳を取りに行って、戻って来たら姿が見当たらなくて。」
「それじゃあ、家からそう離れた場所には行ってないかもね・・・」
「とにかく手分けして探そう。大野さんはスーパー周り、俺は病院付近、
母さんは警察から連絡有るかもしれないからここに居て。」
「わ、分かったわ。もう・・・どうしてこんな事になっちゃったんだろう。」
「大丈夫ですよ、カズ君きっと無事に戻って来ますって。」
「そ、そうね・・・」
それから俺達はカズ君が居そうな場所を隈なく探した。
逃げ出した野良猫を追い掛けて帰り道が分からなくなった可能性も有る。
俺はスマホにニノからカズ君の画像を送って貰い、
道行く人に声を掛けた。
「あの?すみません。この子見掛けませんでした?」
「いやぁ・・・見ないなぁ。」
かれこれ1時間近く探して回ってるけど、有力な情報も掴めないままで
どんどん気持ちが滅入ってしまう。
このまま見つからないなんてことにでもなったら・・・
ダメダメ。俺がそんな弱気になってたら、ニノがもっと不安になるに決まってる。
そしてその数分後、ニノから俺のスマホに着信が入った。
「もしもし?ニノか?見つかった?」
「大野さん?かずゆき無事に保護されました。直ぐ戻ってきて下さい。」
「よ、良かったぁ・・・うん、直ぐ行くよ。」
つづく