この指とまれ
第6話
「はぁ、疲れただろ?今日はもうこのくらいにして帰ろうか。」
「あ、はい。お疲れ様でした。」
帰りは二宮君のご好意に甘えて彼の車で送って貰う事にした。
「なんか図々しくてゴメンね。」
「いえいえ・・・どうせ同じ方向だし、僕の方から声掛けたんで気にしなくていいですよ。」
俺は彼の車の助手席に乗り込み、シートベルトを締めた。
後部座席に目をやると、カズ君用だと思うけどチャイルドシートが積んであった。
「かずゆきちゃんだっけ?可愛いよね。」
「えっ、ああ・・・ありがとうございます。」
「子供、一人だけ?」
「ええ・・・そうですけど。」
「びっくりしたよ。まさか同じ職場だったなんて。」
「フフフッ・・・僕もです。」
「幾つなの?カズ君。」
「ちょうど2歳になったところですよ。」
「一番かわいい盛りだよね。」
「大野さんは?お子さん居ないんですか?」
「え?おいら?おいらはこう見えてもまだ独身だから・・・」
「えっ?そうなんだ?っていうか、大野さんって失礼ですけどお幾つなんですか?」
「おいらは34だけど・・・」
「へえ・・・大野さんも若く見られるでしょ?」
「うん。おいら頼りないからかなぁ。周りの皆がしっかりしてるからかいつも年下と間違えられるんだよね。」
「結婚の予定とか無いんですか?」
「無い。おいらそもそも結婚自体あんまり興味ないんだ。」
「へえ・・・でもお付き合いしてる人は居るんでしょ?」
「今は居ないよ。」
「菊池くん・・・」
「えっ?」
「あの風磨って子、あの人あなたに特別な感情を抱いてますよね?」
「なっ、何で?」
「実は今日ずっと俺あの人から睨まれてた。」
「そ、それが何でおいらに特別な感情だと思うの?」
「そりゃぁ普通誰でも分かりますよ。」
「ええっ?」
「あ、いえ、あくまでも僕の勘ですけど。」
「に、二宮君って同性愛とか受け入れられるタイプ?」
「えっ?あ・・・僕の事はニノでいいですよ。」
「えっ?」
「前の会社でもそう呼ばれてましたから。」
「そうなんだ。それじゃそう呼ばせて貰う。」
「僕は同性愛は経験ないけど、好きになったら異性も同棲も関係無いと思うかなぁ。」
「いやいや、やっぱ無いよ。俺は風磨がどう想ってくれてても仕事仲間ってことでしか考えられないよ。」
「例えば二人で飯とか行った事ないんですか?」
「ないない。二人っきりでは行ったこと無いよ。」
「一度行ってみらた?意外と仕事抜きで話したら彼の別の魅力とかを認識出来るかも知れませんよ。」
「だけど仮においらが飯に誘ってさ、あいつが勘違いとかして受け入れたとか思われたらどうすんの?
おいらその後一切責任負えないからね?」
「大野さんって・・・」
「え・・・」
「真面目なんですね。」
ニノはそう言って堪えきれないといった様子でクスクスと笑い始めた。
「ええ?何?おいらからかわれてんの?」
「あ、いえ。気を悪くされちゃいました?」
「だって面白がってるでしょ?」
「そ、そんなこと無いですって。・・・うわぁ、めっちゃ混んでる。」
丁度帰宅ラッシュの時間だから、国道はかなり渋滞してた。
「ええっと、大野さんちはどの辺ですか?」
「公園入口から200m程先にコンビニが有るんだけど知ってる?」
「ああ、ハイハイ、知ってます。」
「そのコンビニの直ぐ裏のアパートなんだ。」
「そうなんだ?ホントうちから歩いて行ける距離ですよ。」
「ええっ?マジで?」
「あの、それより大野さん?ちょっと今日回り道して帰って良いですか?」
「え?あ、うん、構わないけど。」
「まともに帰ってたらこれ1時間じゃ済まないかも。あの、もし良かったら軽く飯でも食べて帰りませんか?」
「えっ・・・あ、うん、おいらは構わないけど。」
そう言うと、ニノは直ぐに自宅に電話を入れた。
「あ、もしもし?俺だけど・・・今日飯食って帰るから。・・・うん、分かってる。じゃね・・・」
「奥さん夕飯作って待ってるんじゃないの?」
「えっ?あっ、全然大丈夫です。ご心配なく。」
そう言うと、ニノは次の交差点を進行方向からUターンして渋滞をから抜け出した。
つづく