この指とまれ
第66話
side nino
結局うちの母さんは俺達の結婚に条件を付けた。
一緒になるなら和幸は自分の養子として自分が育てる・・・
なんてとんでもないことを言い出した。
母さんが言う事も分からないではない。
同性同士の結婚なんて、全ての人から祝福されたものでは
ないってことも、言われなくたって最初から知っている。
それでも俺は大野さんと一緒に生きていくと決めたんだ。
誰に何を言われようと、世界中を敵に回したって
本当にこれだけは譲れないんだ。
母さんは和幸の心配をしてる。
和幸は俺の子だから、一緒に暮らしていれば
愛情に満ち溢れた日常の中で育つ事で
きっと俺達が色々説明とかしなくても
自ずと分かってくれるって俺は信じてる。
まあ、親のエゴだと言われれば確かにそうかも知んないけど
自分に嘘を付いて生きていく背中を我が子に見せるより
マシだって俺は思ってる。
だけどこれを何と言って親に理解して貰ったらいいのか?
自宅に帰って来てからもずーっとその事を考えて
何回も大きな溜息が出た。
「はぁっ・・・」
大野さんは自宅に戻ると、和幸とずっとジャレて遊んでる。
「よぉーし、カズ君次は飛行機だぞ。おりゃあー!」
「キャーッ・・・おいたんしゅごーい。」
「ほらっ、見て見て!ニノ!カズ君凄くねえか?」
大野さんはフロアーに寝っ転がり、膝を曲げて足の裏に和幸を乗せて
両手を握った状態で立たせてる。
「凄いね。サーカスみたい。」
「だろう?ニノもやるか?」
「は?」
「ニノも乗ってみるか?」
「無理です・・・」
「何で?出来るよ。おいらを信じて!」
「何馬鹿な事言ってるんですか。危ないからもう止めなさいよ。」
「危なくないよなぁ、カズ君。おいたんがしっかり捕まえてるもんな。」
「駄目!かずゆき、もう降りなさい。パパとお風呂入るよ。」
「いやいや。おいたんがいいの。」
「・・・だそうですよ?」
「おっ?おいたんがいいか?それじゃ3人で入るか?」
「せ、狭いから俺はいいです。」
「恥ずかしがらなくていいじゃん。」
「別に恥ずかしがってなんか・・・」
「よし、決まりな。皆でお風呂入ろう。」
「わーい、わーい。」
大野さんのペースに完全に巻き込まれてしまって
結局3人で家の風呂に入った。
「いーち、にーい、さあーん、よぉーん・・・」
「ちゃんと肩まで浸かりなさい!」
「パパは何時もこんななんか?」
「うん、いっちゅもこんなよ。」
「かーず!余計な事を言わなくていいの。」
「んふふふっ・・・」
「ふふふふっ・・・」
大野さんと3人の生活って、きっとこんな風に毎日が楽しいんだろうな。
母さんは何も分かっちゃいないんだ。
幸せになることに引き算なんて全然必要ないのに・・・
風呂を出て身体拭いてたら大野さんが俺の耳元で
「おいら、我慢出来ねえぞ?今夜・・・しよー・・な?」
って真顔で囁くから
「なっ///子供の前で何言ってんすか?」
裸の背中に平手打ちをお見舞いした。
「いってぇよー。」
「我慢出来ないのはお互い様です///」
吹き出しながらそう言って、さっさと和幸にパジャマを着せた。
大野さんは、うちの母さんから条件付けられても
全然堪えてないようだけど、何も考えていない訳じゃないと思う。
大野さんがドライヤーで和幸の髪を乾かして、
ついでに俺の頭も乾かしてくれた。
「ああーもう我慢出来ねえ・・・」
「おいたん、おちっこ?」
「えええっ?」
俺はその会話が可笑しくて大笑いした。
和幸は風呂から上がると疲れてあくびを連発し始めた。
「それじゃ、俺は和幸を寝かしつけてきます。」
「え?おいらがやるよ。」
「いいの?」
「当然だよ。おいらもカズ君の父ちゃんになるんだもん。
そのくらい出来るよ。」
「とうちゃん?」
「そっ、これからはおいたんじゃなくてとうちゃんな?」
そう言って大野さんは和幸と二階の和室に上がった。
今夜はベッドではなくて和室に3人で寝ることにした。
こんなに協力してくれるし、和幸もここまで大野さんに
懐いてくれてるのだから、子育ても全然大変じゃないと思う。
やっぱり、明日実家に俺一人で帰って
母さんには俺からもう一度キチンと話をして
条件は撤回して貰おうと思う。
俺がどんなに大野さんと一緒になりたくても
和幸の事を邪魔だと思った事もないし
和幸が居ない生活なんて俺は一度も望んでいない。
自分の親なんだから、話せばきっと分かってくれるはず。
二階で暫く二人の笑い声が聞こえていたけど
そろそろ和幸も眠ってしまったのか、二階が静まり返ったから
俺は大野さんに明日の事を伝えようと和室を覗いたら
和幸も大野さんも無邪気な寝顔で完全に眠りに就いていた。
「フフッ・・・我慢出来ねえんじゃなかったのかよ?」
俺はそう呟いて暫く二人の可愛い寝顔に見惚れてた。
つづく