この指とまれ
第67話
side nino
「本当に大丈夫?」
「任せてよ。」
「心配だなぁ・・・」
「大丈夫だって。なぁ、カズ君。」
次の日、和幸を大野さんに預けて俺は実家に行くことにした。
本当は大野さんも一緒に行くと言ってたんだけど
昨日の母さんの様子じゃ、二人で話に行っても同じことのような
気もするし、先ずは俺が納得いくまで話合う方がいいと思った。
「もし和幸がぐずった時は電話して貰って構いませんから。」
「心配いらないよ。ちゃんとおいらが見てるからさ。」
「うん。それじゃ、かずゆき、パパ行って来るから
良い子にしてなさいよ。」
「バイバーイ。」
「ニノ・・・」
「はい?」
「時間はまだたっぷり有るんだからさ、喧嘩とかするなよ。」
「うん、分かってる。それじゃ、夕方までには戻るから・・・」
「おうっ、いってらっしゃい。」
「なんか・・・つまんない・・・」
「えっ?何が?」
「だって、和幸が全然俺の後追わないんだもの。
何時もなら出掛ける時くっ付いて離れないのに・・・」
「んふふっ。おいらと一緒だから平気なんだよな?」
「うんっ。」
「もういいよ。行って来まーす。」
「いってらっしゃーい。」
大野さんが大好きなのは分かるけど
何であんなに懐いちゃってるんだろう?
大野さんに嫉妬する気持ちと和幸にも若干嫉妬してる俺。
何かホント複雑な気分だ。
まぁ、懐いてくれてるからこそ今日みたいに
和幸を置いて出れる訳だから、そこは有難いことなんだけど。
そしてその後、俺は実家に向かった。
「ただいまぁ・・・」
「あら?和幸は?」
「あー、見て貰ってる。父さん居る?」
「二階で野球見てるんじゃない。」
「母さんもちょっと来て。話が有るんだ。」
「結婚の事ならもう昨日話したでしょ?父さんには私からも
説明してあるわよ。」
「どうせ和幸を引き取る説明したんだろ?
いいから、ちゃんと話を聞いてくれよ。」
「もう、分かったわよ。待って、父さん呼んでくるから。」
母さんはブツブツ文句を言いながら二階に居る父さんを呼びに行った。
二人をダイニングテーブルに並んで座らせて、
俺は対面に座り、普段は猫背なんだけどここはあえて背筋を伸ばした。
「父さん、母さん、今日はお願いがあって来ました。」
「な、何だ?改まって。再婚の事はもう母さんから聞いてるぞ。」
「母さんの話は条件付きでしょ?そうじゃなくって
和幸は俺と大野さんで責任もって育てます。」
「何も私は再婚に反対してる訳じゃ無いわよ。」
「それは分かってる。」
「和幸の将来を考えてうちで引き取ると言ってるの。」
「それは、俺が死んでから頼むよ。」
「はぁ?」
「あのさ、俺達が仲良く暮らすと言ってるのに
どうして和幸の将来が駄目になるのかが分からないよ。
俺達が同性だから?でも女の人が相手なら
継母がどうこう言ってたじゃない?」
「あのねぇ、自分の事ばかり考えないで・・・」
「酷いよ。俺がいつ和幸の事を後回しにした?
大野さんは和幸が居る俺なんかを好きになってくれたんだよ。
二人を面倒みるって言ってくれたんだよ。」
「大野さんが感じの良い人なのは分かるわ。」
「でしょ?」
「でも、それとこれとは別問題よ。」
「母さん・・・」
「あんたが大野さんの事がそんなに好きなら一緒になるといい。
でも、和幸は・・・」
「俺達9月には大野さんの仕事の関係でハワイに移住するんだ。
和幸は絶対に連れてくからね。」
「ハワイ?」
「そう・・・」
「ま、待ってよ。母さんそんなの聞いてないわよ。」
「今初めて話したもの。」
「そんな大事な事をどうして先に言わないんだ?」
「だ、だって・・・」
「どのくらいの期間なの?」
「分からない。でもほぼ永住になるかも知んない。
大野さんはハワイの事業所の代表になるの。」
「そ、そんな・・・」
母さんはその話を聞いた途端、急に泣き出してしまった。
「か、母さん?」
「それじゃ、もう・・・あんたにもかずちゃんにも会えないじゃない・・・」
「えっ・・・あの・・・」
「母さん、そんなの嫌だから・・・」
母さんは、単純に孫が可愛くて
本当に我が子みたいに想ってくれてたって事なんだ。
俺が同性の大野さんと結婚することに対してどうこうという訳では
ないんだって、この時ハッキリと分かった。
それにしても、生まれて初めて俺は母さんを泣かせてしまった。
離婚して、親に苦労掛けたことだけでも親不孝なのに
そんなつもりではなかったにせよ何だか凄く胸が痛む。
「な、何も一生会えなくなるとか・・・そういうんじゃないから。」
とは言ったものの、母さんはどんな言葉を掛けても
暫く俺と父さんの前ですすり泣いていた。
つづく