この指とまれ
第7話
俺達は帰宅ラッシュを避ける為にラーメン屋に寄った。
いくら面識有ったと言っても初対面と変わらないのに、
わざわざ自宅まで送ってくれるという言葉にただ甘えるのも気の毒だったから
そこの食事代は俺が払った。
1時間ほど時間をずらしたことで、帰宅ラッシュは解消されててその後はスムーズに帰って来れた。
「何か、すみませんでした。僕が一方的に誘ったのに。」
「ううん。送って貰ったんだもん、気にすることないよ。」
「時間が合うならこれから何時でも送りますよ。あっ、でも菊池って人にまた睨まれちゃうかな。」
「もぉ、またぁ?風磨の話はいいよ。」
「ウフフッ・・・それじゃあ、大野さんまた明日。」
「うん、ありがとうね。それじゃまた明日ね。」
何だかんだで新入りがニノみたいな人で良かったと思った。
うちの仕事は初心者と言ってはいたけど、見た目若いけど
広告代理店では10年近く働いてたみたいだから新卒の若い新人よりも
適応能力高いだろうし、何よりも状況を読む力を持っていそう。
今日一日で風磨の考えてることまで分析してたのにもちょっと驚いた。
この俺自身、たった一度しか話した事なかったのに
自分でもビックリするくらい自分の事を彼に色々話した気がする。
まだ何の信頼関係も無いっていうのにそれは本当に不思議だった。
多分、話してみたら俺なんかよりずっとシッカリしてるって思ったからかな。
そしてその二日後、俺はニノと次の仕事の下見に宮古島に向かった。
その日の朝からニノが俺のアパートまで車で迎えに来てくれて
会社には寄らずに空港へ直行した。
直行便の飛行機で約3時間、ニノはずっとスマホのゲームしてて
俺は音楽聞いてたけどいつの間にか眠ってしまってた。
「大野さん、大野さん、そろそろ起きて下さい。」
「んっ・・・えっ・・・」
「随分気持ちよさそうに寝てましたね。起こすの申し訳ないくらいでしたよ。」
「おっ、もう到着すんのかぁ。」
現地に到着すると、もうそこは既に真夏の日差し。
「あっつぅ!」
「流石に暑いですね。」
俺達は空港からタクシーで相葉君が予約してくれてるホテルに向かった。
フロントでチェックインの手続きをしたら、予約がツインルームになってる事にその時気付いた。
「ええっ・・・マジかぁ。」
「どうかしました?」
「あ、ニノ、ちょっと待ってくれるか?」
「え?あ、ハイ。」
俺は慌ててスマホを取り出し会社に電話を入れた。
「もしもし、大野だけど相葉ちゃん居る?」
「もしもし・・・相葉です。おおちゃん?もう着いたの?どうかした?」
「どうかしたも何も、ホテルの手配間違ってるよ?」
「え?間違ってるって何が?」
「ツインルームってどういう事よ?シングルを二部屋取ってくれたんじゃなかったの?」
「あっ・・・ゴメンゴメン、言うの忘れてたけどね、今回予算の都合でツインルーム一部屋でって
翔ちゃんからお達しがあったんだよ。」
「マジで?」
「もし一人一部屋がどうしてもいいなら、自己負担になるけどそこは好きな様に決めてくれていいよ。
あ、そもそも空き部屋が有ればの話だけどね。」
「えええっ・・・」
「とにかく手配は別に俺のミスじゃないからね。そこは勘違いしないでね。
同行者が女の子だったら別々で手配も出来たんだろうけど、クレームは翔ちゃんに言ってよね。」
「ううう・・・分かったよ。」
俺は頭を抱えながら電話を切った。
「何?どうかしたんですか?」
「え・・・あ、うん。なんかさ、予算が足りなくて部屋を一つしか取れなかったらしくて・・・
参るよね。どうしよう?あれならおいら自腹で一部屋借りるけど・・・」
「フフッ、そんなの俺は気にしませんけど。」
「えっ?」
「ルームキー貰いました?」
「あっ、いや、まだ・・・」
ニノは平然とフロントでルームキーを受け取り
「それじゃ、行きましょうか?」
と言ってさっさとエレベーターの場所まで歩き出したから、俺も慌ててニノを追い掛けた。
戸惑いを隠せない俺を見て、ニノがクスクスと笑い出す。
「えっ・・・あ、あのさ・・・」
「大野さんって面白いですね。」
「ええっ?」
「菊池君て人の気持ち、ちょっとだけ分かった気がする。」
ニノが何を言いたいのかさっぱり分からない俺。
だけど、ニノが同じ部屋に拒否反応を示さないってことは確かで
それに引き換え明らかに動揺してる自分は、
一体何でそこまで動揺してるのかすらも全く意味不明。
部屋に辿り着くと、ニノがルームキーで扉を開けて俺に先に入るように促した。
「どうぞ・・・」
「えっ、あ、うん。」
「うわぁ、ね、大野さん見て!めっちゃ綺麗!」
中に入ると、窓ガラスから見渡す限りのオーシャンビュー。
都会に住んでたら味わえない絶景に、ニノがちょっと興奮状態でベランダに飛び出した。
何はともあれ・・・思ってた以上に結構広い目のツインルームだったし
しかも男同士だし、寝るだけなんだし、過剰に個室に拘る必要も無かったかな・・・
ちょっとでも動揺したさっきの自分が恥ずかしくなった。
つづく