この指とまれ
第70話
身体重ねたところで何一つ解決するわけじゃない。
もう俺のハワイ行きはとっくに決定してて、
今更撤回する事など出来っこない。
ニノはある理由で俺とは一緒に行くことは出来ないと言ってる。
だけど離れたくない。ずっと一緒に暮らしたい・・・
俺達はまだ始まったばかりなんだ。
お互いの愛を身体で確かめ合った俺達は、
その事が全て済んだ後、裸で脱力したまんま
暫く放心状態でベッドの上に寝転んでいた。
そして、ニノがようやく俺に自分から昨日の事を話し始めた。
「母さんがね・・・」
「えっ・・・」
「昨日ね、うちの母さんが俺の目の前で泣いちゃったんですよ。」
「ど、どうして?」
「母さんは元々俺とあなたが結婚することに反対じゃなかった。
だけど、ハワイに移住する話をした途端泣き出しちゃって・・・」
「ああ・・・やっぱそうだったのか・・・」
「なんだかんだ言っても孫の成長を途中で見れなくなると思うと
寂しいんだと思う・・・」
「そうだよなあ・・・」
「俺が全て悪いんだけど、離婚とかで和幸の面倒を全部押し付けて
自分が結婚することになったからって、もう用無しみたいに
顔も見れなくなるような遠い所に行っちゃうっていうのは
やっぱりあまりにも勝手が良過ぎやしないかなって・・・
俺ね、生まれて初めてなんですよ。母さんを泣かせたの。」
「そっか・・・」
「俺一人の事なら絶対あなたに何があっても着いてくと思うの。
だけど・・・そうじゃないから・・・」
「孫は実の我が子より可愛いって言うもんな。
うちだってもし孫が居たら同じように泣くと思うもん。」
「そうかもしんないね。」
「何か良い方法ないかなぁ。なんなら家族全員でハワイ行く?」
「そんなの無理ですよ。父さんは仕事だって有るし、
母さんの両親だってまだ入退院繰り返してるけど健在で
どうか有ると今みたいに面倒みなきゃなんないし。」
「そうだよなぁ。おいら、ニノが一緒に来てくれると思ってたから
ハワイ行きOKしたんだけど、こんなことなら断るべきだったな。」
「ゴメンなさい・・・俺のせいで。」
「謝んなくて良いけどさ・・・」
「だけど時々は帰ってきてくれるでしょ?」
「そりゃ勿論そうだけど、年に1,2回会えれば良い方だと思うよ。」
「はぁ・・・やっぱそうだよね・・・」
「ねえ、一度だけおいらに話させてくんないか?」
「ええっ?」
「駄目もとを承知でだけど。」
「で、でも・・・」
「大丈夫。絶対におばさんを泣かせるようなことは言わない。
約束するよ。おいら、何もしないでこのまま一人でハワイに行くよりは
やるだけの事やってみて駄目だったとしても、まだ諦めも着くと思うんだよね。」
「うん、それもそうだよね。多分何言っても同じだとは思うけど
それであなたの気が済むんであれば、それは構わないですよ。
どうせまた週末は和幸と母さんを迎えに行くし、その時にでも
話してみます?」
「うん。」
「今何時かな?」
「もう9時回ってる。何で?」
「今日ね、夕飯何も作ってないの。」
「マジか。そういや腹減ったな。」
「何か外に食べに行く?」
「いや・・・それよりおいらはもう1回ニノが食べたい。」
「えええっ?ま、また?」
「だっておいらがハワイ行ったら、もう当分お預けになるんだよ?」
「そ、そりゃそうだけど・・・言っとくけど、こういうのってさ
回数をこなしたからといって貯金みたいにはなんないですよ?」
「それでも身体に記憶させとけるかもしんないじゃん。」
「何それ?ウケる・・・」
そう言ってニノは笑うけど、俺からすれば
決してそれは冗談なんかじゃないんだ。
俺がニノのご両親をうまく説得出来なければ
俺とニノは七夕みたいな数か月後には間違いなく
離れ離れになってしまい、年一で会えればマシっていう
まるで七夕みたいな関係になってしまうんだもの。
健全な独身の良い年した男が恋人に会いたくても年一しか会えなくて
そういった行為すら出来なくなるなんて、
そんなのきっとどちもらも耐えられる訳無いんだ。
もう、こうなったらニノの両親に俺という人間を理解して貰って
誠実に自分の考えを伝える以外に道は残されていない気がする。
ニノはもう結婚を諦めた様な言い方をしてるけど
決してそれは本心ではないことくらい、俺には分かる。
だから、俺は最後まで諦めない。
だって、俺はニノが好きだ。
何が有っても俺はニノと生きていく。
「ニノ・・・」
「ん?」
「おいらを信じろ。」
そう言って再びニノの身体に覆い被さり
彼の黒髪をそっと撫でると、俺の言葉に応えるように
ニッコリと微笑むその唇に俺は優しく唇を重ねた。
つづく