この指とまれ
第81話
side nino
それから1週間経って、智の新事業所の初出勤の日がやって来た。
その日は仕事というよりも、開所のお祝いという事で
オフィス内でパーティーが開かれることになってた。
「ニノもおいでよ?」
「ええっ?俺は辞めた人間ですよ?しかも和幸も居るし・・・」
「カズも連れて来なよ。どうせ今日は仕事じゃないんだし
こっちに来てるメンバーも全員ニノの事知ってるんだしさ。」
「いいの?」
「勿論。」
「うーん・・・そうだなぁ。久々相葉さん達には逢いたいかな。」
「そうだろ?それじゃ、決まりな。」
結婚したら、完全に仕事から退いて欲しいと言われて
智の言う通りに家庭に入ったつもりなんだけど
これから毎日家事と育児にどっぷり嵌んなきゃならないわけで
友達と交流くらいしないと、幾ら何でもストレスが溜まりそうで
正直不安だった。
だから智がパーティーに誘ってくれた時
ちょっと躊躇いはしたけど、本当は嬉しかった。
「代表、おはようございます。
お迎えに参りました。」
「おおっ、おはよう。そ、そっかぁ。今日からおいら代表なんだ。
え?これから毎日迎えに来てくれんの?」
「はい。送迎も私の仕事ですから・・・」
そう・・・俺が不安に思ってる事がもう一つ。
同じマンションに秘書の知念が居る事だ。
「だって悪いよ・・・」
「どうせ同じマンションなんで、気になさらないでいいですよ。」
「で、でもぉ・・・」
智が恐る恐る俺の顔色を覗ってる。
ま、そこまで分かってるんなら、俺が心配するようなことは無いと思うけど。
「いいんじゃない?せっかく知念君がそう言ってくれてるんだから。」
「ええっ?」
「何?」
「い、いや・・・それ本気で言ってるの?」
「勿論ですよ。」
「あ、知念君、今日はニノとカズも一緒にパーティ出席するけど。」
「そうですか?分かりました。」
「直ぐに支度するから・・・」
「それじゃ、僕は車で待ってますんで。」
「悪りぃな。」
俺は和幸と急いで部屋着から外出用の服に着替えて
知念の運転で、事業所へと向かった。
事業所に着くと、ハワイの事業所に転属が決まったメンバーが
既にオフィスに集まり、パーティーの準備をしていた。
「おはよう。」
「おおちゃん・・・じゃなかった、代表おはようございます。
わわっ、ニノも来たんだ?おはよう。」
「お久し振りです。相葉さん。」
「えっと・・・?」
「あ、息子の和幸ですよ。」
「ああーっ、そっかぁ。可愛いなぁ。ニノそっくりじゃん。」
「すみません、急にお邪魔して。」
「いいよ、いいよ。知らないメンツでもないんだからさ。」
顔馴染みのメンバーに会って、俺もちょっとだけテンションが上がった。
「それじゃ、代表ご夫妻もいらしたことだし、始めますか?
代表、挨拶をお願いします。」
「えっ?マジか・・・
えっと・・・こういうの慣れてないから苦手なんだよな。
皆さん、おはようございます。俺も不慣れではあるんで
色々と不便を掛けるかもしんないけど、皆が仕事し易い
楽しい職場を目指していこうと思います。
今後とも日本と同様、宜しくお願いします。」
「それでは、今日は出陣式ということですので
ソフトドリンクでは有りますが、乾杯をさせて頂きます。
カンパーイ!」
松本さんの音頭で乾杯をした後、
それぞれ食事を摘まみながら座談が始まった。
「代表?これから関連の会社に挨拶回りに行きますので
支度をなさって下さい。」
「おっ?そっか、そうだったな。」
「え?出掛けるの?」
「あ、うん。ニノとカズはゆっくりしといて。
挨拶午前中には終わると思うからさ。」
「う、うん。」
知念は秘書だから当然なんだけど、智と一日中ベッタリだ。
そんなこと最初から分かってた事なんだけど、
会社にやってきて、改めてそれを思い知らされた。
「ニノちゃん?新婚生活はどう?」
「えっ?あ・・・どうって・・・普通です。」
「普通なわけないでしょ?うひひひっ・・・」
「もぉー、何考えてるんですか?相葉さんったら。」
「そういえば聞いて無かったけどさ、二人のきっかけって何なの?」
「あー、公園・・・です。」
「公園?」
「そう、俺ね、あの人とは会社が初めてじゃないんですよ。
会社は偶然一緒だったの。」
「うわぁ、それって運命ってヤツね?」
「そんな大袈裟な話じゃないですけどね。」
「ニノちゃん、幸せ?」
「そ、そりゃあ・・・幸せですよ///」
「きゃはーっ、ご馳走様。」
「冷やかさないで下さいよ。あ、今度良かったらうちに遊びに来て下さいよ。」
「ええっ?いいの?」
「勿論ですよ。」
「行く、行く!」
これだけ俺と智の関係がスタッフの皆に認識され、
祝福までされてるんだから幾ら何でもあの知念だって
やすやすと智に手は出さないだろうな。
もう、余計な心配するのはやめよう。
あの人は何が有ってもこの俺を裏切らないって信じてる。
俺は智が挨拶回りから帰ってくるまで
取り留めも無く皆と雑談を続けた。
つづく