この指とまれ
第92話
罰ゲームのコスプレだとか、その衣装のまんまの挙式だったりとか
それは俺達が予想もしてなかった展開だった。
驚きと戸惑いは有ったけど、何よりも参列してくれた全ての人が
俺達の結婚を心から祝福してくれたことに俺は感動してしまい
勝手に涙が溢れてどうしようもなかった。
結婚は自分とは縁遠い話だと思ってたし、自分達が幸せなら
周りに何と言われようと関係ないと思ってたんだけど
やっぱり正直なところ自分の心の何処かに
同性婚という事実に対する後ろめたさ、みたいなのが
有ったのかも知れない。
だから祝って貰えて本当に嬉しかったんだと思う。
勿論同性だろうと異性だろうと、相手がニノって事が重要なんで
もしもニノが化け物だろうが宇宙人だろうが
俺にはそういうことは一切関係ないって話なんだけど。
式も滞りなく終了して、皆で記念撮影をして
俺達は元の服に着替えた。
その後食事をしながら参列してくれた皆の余興を楽しみながら
あっという間に幸せな時間は過ぎた。
宴も終盤に差し掛かった頃、俺は風磨がその場に居ないことに気付いた。
「ん?あれ?翔ちゃん、風磨は?」
「え?あ・・・うん・・・ちょっと散歩に出掛けた。」
「散歩?」
「うーん・・・大野さんは知らなくていいよ。」
「えっ?どうゆこと?」
「智は鈍いんだよね。そういうとこ・・・」
ニノが俺の横でボソリと呟いた。
「な、なんだよ?鈍いって・・・」
「デリカシーの問題ですよ。」
「はぁ?」
「ニノ、こんな日にやめときなよ。」
「翔さん、だって自分が原因になってることを気付いて無いのは
流石にダメじゃない?」
「ええっ?おいらが原因って?」
これは後で聞いた話なんだけど・・・
風磨は俺とニノが幸せそうに式を挙げてる姿を流石に
黙って見ていられなかったからその場を離れたらしい。
確かに風磨が俺に想いを寄せてたという事実は有ったけど
今は完全に俺に対する想いも何もかも吹っ切れて
翔ちゃんと一緒に居るものだと思ってた。
ニノから言わせると、失恋の痛みなんて
そう簡単に癒えるものじゃないらしい。
こんな俺なんかの何処が良かったんだろう?
「菊池君はビーチですよね?俺あとで様子見てきます。」
「そう?悪いな・・・」
ニノは翔ちゃんにそう言うと、宴がお開きになった直後に
風磨を探しにビーチに出掛けて行った。
「それじゃ、俺達はこれで失礼します。」
「今日は本当にありがとう。凄く楽しい結婚式っだったよ。」
「おおちゃん、皆マイクロバスで帰るけどどうする?」
「大野さんとニノは今夜はうちに泊まりなよ。」
「ええ?翔ちゃん、いいの?」
「うん、俺らも明後日には日本に帰るから、もっとゆっくり話たいしさ。」
「それじゃそうさせて貰おうかな。」
「あ、それじゃカズ君は僕が預かりましょうか?」
「え?」
知念が突然そんな事を言ってきた。
「いや・・・でも・・・」
「カズ君、兄ちゃんちにお泊りしようか?」
「うん!かじゅおにいたんがいい!」
「ま、マジか・・・」
「1日くらい大丈夫ですよ。僕が責任もってお預かりしますんで安心して下さい。」
「だけどニノが何て言うか・・・」
「後から僕からも奥さんにお電話しますよ。」
「う、うん・・・カズ?本当にパパ居なくて大丈夫なの?」
「うん!」
「随分懐いちゃったな・・・」
「それじゃ、今夜はお二人ともお疲れでしょうから
ゆっくりなさって下さい。」
「あ、うん。それじゃカズのこと宜しく頼むね?」
「お任せ下さい。さ、カズ君行こうか?」
そういう流れでカズ君は知念が一晩預かると言って
カズ君もご機嫌に皆とマイクロバスに乗り込み帰って行った。
「知念君、随分気が利くみたいだね?」
「え?あ、うん・・・」
「何?心配なの?」
「いや・・・ニノが居ない時に勝手にお泊りなんて決めたりしたら
後で物凄く怒んないかなって思って。」
「あー。大野さん、その事でちょっと聞きたい事あるんだけど・・・」
「えっ?」
「とにかく、中で飲みながら話さない?」
「うん・・・」
玄関先でマイクロバスを見送った後、俺と翔ちゃんは
家の中に戻り、リビングに酒とつまみを準備した。
そしてワインを酌み交わすと、ちょっと神妙な顔つきで翔ちゃんが
俺に話をし始めた。
つづく