この指とまれ
第94話
side nino
菊池君が翔さんの別荘から突然姿を消してしまって
心配になった俺は、散歩しているであろう、別荘からそう離れていない
ビーチへと彼を探しに行った。
ゲームまでは皆と楽しそうに参加していたのに
よほど結婚式が見るに堪えられなかったのだろう。
俺は智の結婚相手だから、俺が行ってあげたところで
何の慰めにもなんないとは思うけど
あの人を好きになったという共通点が俺には有るから
彼の気持ちは痛い程分かる。
もしも俺が菊池君の立場だったとしてもきっと
あの場所には流石に居られなかっただろうと思うから。
ビーチはとっくに黄昏時を過ぎてて人影も殆どない。
穏やかな風がそっと頬を撫でる。
暫く海岸を歩いて探すけど、風磨の姿が見当たらない。
一体何処まで行っちゃったんだろう?
もしかしたら入れ違いで帰っちゃったとか?
そんな事を考えながら、ビーチを一人歩いていたら
いきなり誰かが背後から俺の両肩に手を置いた。
「うわあぁぁっ!」
俺は驚いて振り返った。
「あははっ・・・ゴメン、驚いちゃった?」
「き、菊池君!」
「二宮さん、何してるの?こんな所で。」
「え?・・・何って・・・」
「もしかして、僕の事心配して探しに来てくれたとか?」
「あっ・・・うん・・・」
「そっか・・・やっぱりそりゃ大野さんも好きになるよね。」
「え?」
「二宮さんのことですよ。」
「菊池君・・・あのさ・・・あのね・・・」
「僕、前にも言いましたけどお二人の結婚は心から祝福してますよ。」
「で、でも・・・」
「だったらどうして会場から逃げ出したりするの?ですか?
・・・そりゃあね、一応こう見えても結構傷付きましたからね。
僕も大野さんの事は本気だったんで・・・あ、ちょっと座りません?」
「う、うん・・・」
そう言うと、菊池君は砂浜に腰を下ろしたから
俺も隣に並んでその場に座った。
「ハワイって・・・いいですね。」
「え・・・あ、うん・・・」
「ストレスとか感じなさそうですよね。」
「うん。」
「僕も将来はハワイに永住しようかなぁ。」
「あのさ・・・」
「何ですか?」
「俺の事は恨んで貰っても構わないんだ。だけど
智の事は・・・許してやって欲しいの。」
「えっ?」
「あの人・・・なんていうか、色々不器用な人なんだよね。」
「二宮さん?僕べつにフラれたからって恨んだりとかしないですよ。
何て言うか、大野さんが俺を恋愛対象に選んでくれなかった理由って
やっぱり僕に二宮さんみたいな魅力が無かったからなんだなって。」
「俺、魅力なんて全然無いよ。」
「二宮さんに自覚が無くても、大野さんからしたら
十分魅力的なんだと思いますけど。」
「どうなんだろうね?結婚しちゃうとそうでも無いのかもよ?」
「ん?それってどういう?」
「あっ、ううん・・・何でもないよ。独り言だから気にしないで。」
「今、幸せですか?」
「う、うん。」
「そうですよね。新婚ほやほやの二宮さんに野暮な質問でした。
すみません。でも・・・お二人には幸せになって貰わないと
僕も困るっていうか・・・二宮さんの口から不幸だなんて聞いたら
俺が諦めた意味がなくなりますからね。」
決して不幸せだって感じてる訳じゃ無い。
だけど、改めて聞かれると・・・今はちょっとだけ
考えてしまう自分が居るのも事実なわけで・・・
俺が勝手に不安に思ってる事であって
本当は何も心配なんてする必要無いのかも知んないけど
よっぽど前の結婚がトラウマになってるんだよな。
何時またあの時みたいに浮気されるんじゃないかって
正直どこかで怯えて暮らしてたりするものだから
「幸せか?」と聞かれて少し返事を躊躇う俺がいる。
「翔さん、好きなんでしょ?」
「ええっ?」
「隠さないでも知ってるよ。二人は付き合ってるんでしょ?」
「僕は翔さんの優しさに甘えてるだけです。確かに今一緒に暮らしてますけど
二宮さんが思ってるような関係じゃないですよ。」
「そうなの?でも好きなんでしょ?」
「代表は優しくて良い人です。だけど何時までもその優しさに
甘えてもいられませんよね・・・」
「え?でもそれって・・・」
「心配してくれてありがとうございます。でも、僕は大丈夫なんで。」
「そ、そう?」
「そろそろ帰りましょうか?二人が心配してるかもしれない。」
「あ、うん。」
俺が思ってたほど、菊池君は落ち込んではいなかった。
むしろ、スッキリした表情だったことから俺の考えすぎだったかなって
思えるくらい彼は元気だった。
恐らく気分転換に散歩したくてビーチに抜け出したのかも知れない。
俺達は立ち上がって服に着いた砂を払うと
急いで翔さんの別荘へと帰って行った。
「ただいまぁ・・・」
「あ、お帰り。」
「ん?あれ?和幸は?」
「えっ、あ、その・・・」
「知念君が今夜は和幸君の面倒をみてくれるって、社宅に連れて帰ったよ。」
「は?」
「今夜は二人とも疲れてるだろうから、うちに泊まってくといいよ。」
「俺・・・帰ります。」
「ええっ?何で?」
「どうして勝手に預けたりするの?和幸は俺達の子供だよ?」
「に、ニノ・・・」
「カズ君も喜んでたし、今夜はもう知念君に任せたら・・・?」
「ふざけんな!智の馬鹿!!」
何でよりによって又知念なの?
俺は怒りが頂点に達してしまい、そのまま別荘を飛び出していった。
つづく