この指とまれ
第95話
「あっ、ニノ待って!」
やはり思ってた通り、ニノは自分が居ない間に勝手に
カズ君を連れてかれてしまった事に腹を立てて
別荘を飛び出してしまった。
「ど、どうしよう・・・」
「大野さん、ひとまず追い掛けた方が良いよ。」
「う、うん・・・」
車はホテルに置いて来てたから、移動手段が無いこともあって
そう遠くへは行ってないはずだと翔ちゃんと風磨も一緒に
ニノを探してくれた。
30分位別荘の周辺を探すけど、ニノの姿は見当たらない。
「どう?見付かった?」
「ううん・・・そっちは?」
「ダメだ。何処にもいない・・・」
「ここから歩いてホテルに向かうなんて考えられないですけどね。」
「どうしよう・・・おいらが知念に預けたりしちゃったから・・・」
「大野さん?ひょっとして知念君と何か有ったんですか?」
風磨が俺の顔を疑いの眼差しで覗き込んでそう質問を投げ掛けた。
「なっ、何にも無いよ。有る訳無いじゃん!」
「さっき、二宮さん僕のことを心配してわざわざ探しに来てくれたんですよね。
だけど心なしか元気なかったんですよね・・・
気のせいかなって思ったんですけど、なんかちょっと疲れてたっていうか。」
「え?マジで?」
「ねえ、大野さん?二宮さんに隠し事とかしてませんよね?」
「えっ・・・そ、それは・・・」
「してるんですか?」
「か、隠し事と言っても、別に疚しい事は何もないよ。
いやいや、本当だからね。信じてよ。」
「大野さん、こうなってっしまったら一刻も早く
英会話の事はニノにキチンと打ち明けた方がイイよ。」
「しょ、翔ちゃん、分かってるよ。」
「英会話?」
「大野さんはね、ニノに内緒で最近は知念君から
英会話の個人レッスンを受けてたらしいんだ。」
「はーん・・・なるほどね。そういうことか。
そりゃ二宮さん不安になるはずですよ。
そのうえいつの間にかカズ君も彼にすっかり
懐いちゃってるみたいだし。」
「ううっ・・・どうしよう。」
「僕、まだお二人が日本に居る時に二宮さんにちょっと
釘をさしちゃったんですよねぇ・・・」
「な、何?」
「知念君には気を付けた方がイイって。」
「ええ?」
「何でそんな事言ったの?」
「大野さんって誰にでも優しくするところあるでしょ?
僕も例外じゃないけど、近くに居るヤツは勘違いしちゃうんですよ。」
「ま、待ってよ。それっておいらのせいじゃないよね?」
「勿論大野さんはわざと優しくしてる訳じゃないですからね。
勘違いするヤツが悪いんですけど・・・
でも考えてもみて下さいよ。知念君は年も若いし、そこそこ
チャーミングだったりするし、語学も優れてて・・・
二宮さんも自分と比較しちゃって不安になるのは当然だと思うけどな。」
「そ、そんな・・・」
「風磨、ちょっと幾ら何でもそんなことニノに言えば
余計引っ掛かってたに決まってるじゃん。」
「だって、まさか英会話の個人レッスンだなんて・・・
自分もそこまでは予測してなかったもの。」
「風磨にも責任あるな・・・」
「翔さん・・・」
「いいよ。全ては隠れて英会話習ってたおいらが悪いんだ。」
「そんなことよりニノ探さないと・・・」
「あっ、そうだ。もしかしたらビーチかも知んない。
こんな時間だから車も拾えないだろうし・・・
きっとさっきの所で頭冷やしてると思うけどな。」
「風磨、その場所まで大野さんを案内してあげたら?」
「うん、大野さん、僕に着いて来て下さい。」
風磨の案内でそのビーチの場所まで連れて来られた。
すると、風磨が言った通りニノは浜辺にポツンと一人で佇んでいた。
「やっぱり居ましたね。大野さん、僕は戻るんで
あとは頑張って下さい。」
「えっ・・・あ、うん。分かった。」
ニノに気付かれない様にそっと背後から傍に近寄ると
ニノは誰かと電話で話してる様子だった。
「あ、かずゆき?パパだけど、おまえ本当に知念のお兄ちゃんちに
お泊りできるの?パパ居なくて平気なの?・・・そっか・・・
うん、それじゃお兄ちゃんにもっかい代わってくれる?
・・・あ、知念君?本当に大丈夫なの?
・・・いやぁ、でも・・・やっぱりこれからお迎え行こうか?
・・・そ、そう?んー、でもなぁ・・・
そっかぁ。うん、分かった。それじゃ何かあったら直ぐに電話して。
夜中でも早朝でも構わないからさ。
・・・ゴメンね。うん・・・それじゃ明日の朝迎えに行くんで。」
相手はどうやら知念みたいだ。
何とかその電話の内容からカズ君のことは預かって貰う事で話は着いたみたい。
だけどニノは電話を切った後、ふうっと大きな溜息をついて
呆然と海を見つめた。
俺は数メートル離れた所からニノに声を掛けた。
「ニノ・・・」
ニノは驚いてその声に振り返ると、慌てた様子で俺から逃げる様に
その場を走り出した。
「ま、待ってよ。」
俺も必死でニノを追い掛けた。
何とか追い付いて、ニノの右腕を捕まえる事が出来た。
「いやっ!離して!」
ニノが必死で俺の胸を拳で叩いて抵抗する。
「離してったら!」
「頼む!おいらの話も聞いてくれ!」
「嫌だ!話なんか聞きたくない!」
「ニノ!」
「あなたにとって和幸は血の繋がりが無いから他所の子と一緒なんだ。
今日、それが良く分かりました。
あなたに父親の役なんか無理なのに
それを押し付けた俺も俺です。ほんっと馬鹿だった。」
「ニノ・・・ねえ、それってさ?もしも預かってくれる人が
翔ちゃんや風磨でも同じこと言った?」
「え・・・?」
「ニノは単に知念の事が気に入らないだけだよね?」
「そ、それは・・・」
ニノは俺から視線を逸らそうとおもむろに横を向いた。
「おいらの目を見て!ちゃんと答えて!」
「お、俺は・・・」
つづく