この指とまれ
第97話(最終話)
そして月日は流れ、あれから5年後・・・
俺達はこの日久し振りに日本へ戻って来てた。
とは言っても、自分たちの両親にカズの成長を見せてやる為に
年一では日本に帰国はしてはいたんだけど・・・
「和幸はまた身長伸びたんじゃない?」
「去年より5㎝以上は伸びてるよ。」
「ちょっと見ない間にどんどんお兄ちゃんになってくわねぇ。」
成田から直接ニノの実家に向かい、
ニノの両親は久々の孫との対面を心から喜んでいた。
「母さん、着いて早速で悪いんだけど・・・
俺達はこれから翔さんとこに行かなきゃなんないんで
和幸のこと見ててくれる?」
「いいわよ。」
「和幸、夕方には戻るからおばあちゃんちで待っててね。」
「うん、でも父ちゃんのおじいちゃんちには何時行くの?」
「明日連れてくよ。」
カズはまだまだ子供ではあるけど、
いつの間にかたどたどしい喋り方も無くなり
しっかり大人の会話にも入って来るようになった。
子供の成長って本当に目まぐるしいものだ。
こうやって子供の成長を見ながら自分達の老化も
気付かぬうちに加速していくんだろうな。
最近はそんな事も考える様になってゾッとしてる。
「それじゃ、智、行きましょうか?」
「うん。」
俺達はニノのおばさんに車を借りて、翔ちゃんの自宅へと向かった。
実は、今回帰国したのは他でもない・・・
翔ちゃんから結婚式の招待状が届いたからだった。
「おおーっ、大野さん、ニノお久し振り。」
「翔ちゃん、元気そうだね。」
「お久し振りです。」
「ま、上がって。散らかってるけど。」
「うん、お邪魔します。」
「二人とも全然変わんないね。大野さんはまだ肌が真っ黒だから
移住した感じするけど、ニノは相変わらず色白だし・・・」
「俺は引き籠ってゲームばかりしてるから。」
「どう?仲良くやってる?」
「やってるから二人で帰国してんじゃん。」
「そうだよな。はははっ・・・」
「それにしてもビックリしたよ。まさか翔ちゃんから招待状来るなんて。」
「わざわざハワイから呼び出しちゃってゴメンね。」
「ううん。俺達も丁度戻って来たかったしな。」
「だって俺ももう40だよ。キチンと身を固めないとさ、
親が死んでも死にきれないって言い出すし。」
「翔さん?ひとつ聞いていい?」
「ん?」
「菊池君は・・・どうしてるの?」
「え?ああ・・・言ってなかった?風磨も嫁さん貰って
今は一児のパパだよ。」
「えええっ?そうなの?」
「あなた達の結婚式でハワイに行った直後に俺の所から
あいつ出てったんだよ。」
「な、何で?」
「何でって言われても・・・風磨もあなた達を見てて吹っ切れたんじゃないかな。
あと、俺に気を遣ってただろうしね。」
「てっきり翔ちゃんは風磨と一緒になると思ってた・・・」
「俺も・・・」
「ええっ?何それ?マジで?いやいやいや・・・
風磨はあくまでも俺にとっては弟みたいな存在だから。」
「お似合いだったけどなぁ。」
「ちょっと、ちょっと、そういう事言うのはここだけにしといてよ。
彼女が聞いたら腰抜かすに決まってるんだから。」
「そうそう、お相手ってどんな人なの?お見合いなんだよね?」
「うん、俺の3つ下だけど・・・そうだなぁ、何て言うか
大野さんみたいな人だよ。」
「えええ?彼女って女だよね?」
「勿論そうだよ。雰囲気が大野さんになんとなく似てるんだよ。」
「へえ・・・早く見てみたい。智に似てる女性ってどんな人だろう。」
「何て言うか、存在自体が癒し・・・みたいな。」
「ああー分かる。」
「えええっ?何なのそれ?おいら癒しなの?」
「気負わず気張らず一緒に居れるってことですよ。ね?翔さん。」
「そうそう・・・」
「ふうん・・・そうなんだぁ。」
「結局ね、結婚ってそういう事なんだと思いますよ。」
「だよね。理屈じゃないんだよね。フィーリングっていうか・・・」
「っつうことは、おいらは理想の結婚相手ってことか?」
「何調子に乗ってんですか?」
「え・・・だってそういうことだろ?」
「あははっ・・・自分でもそこ考えた事無かったけど
知らずして大野さんに似てる人を選んでたわけだから
結果そういう事なんだろうな。」
なんだか翔ちゃんの言葉がとても擽ったかった。
「そうそう、知念君は元気にしてるの?」
「あ、うん。元気にやってるよ。」
「もうあれからトラブルとか起きてないの?」
「うん、知念にも最近恋人が出来たみたい。」
「えええっ?ホントに?」
「相手は筋肉マッチョな現地のイケメン。
スポーツジムで知り合ったらしい。」
「お、男なの?」
「うん。」
「いやぁ・・・俺も人の事は言えないけどさ・・・
時が経つと人の人生も大きく変わるもんなんだな。」
「変わらないのはおいらとニノだけなのかもね。」
「この先も是非そうであって欲しいものだよ。」
「俺達は大丈夫ですよ。ね?智・・・」
ニノがキラキラと瞳を輝かせて俺を見た。
周りがどんな変化と遂げようと、例え天地がひっくり返ったとしても
きっと俺とニノだけは死ぬまで何も変わらないんだろうな。
っていうか、変わりたいとも思わないけど。
「ああ。」
俺はテーブルの下でニノの柔らかい手をギュっと強く握りしめた。
この指とまれ THE END