この指とまれ
第23話
それから数日後の日曜日・・・
俺は某大型スーパーマーケットのぬいぐるみショーのイベントの応援に来ていた。
「おいたん!」
「おおー、カズ君おはよう。」
「おはようございます、大野さん。本当に連れて来ちゃいましたよ。」
「おはよう。うん、おいらが良いって言ったんだもん、全然構わないよ。」
「ホントに大丈夫なんですか?これ一応仕事ですよ?」
「応援だもん。メインの仕事ならマズいけどさ、裏方手伝うんだから
そこまで気負う必要ないんだよ。」
「本当かなぁ・・・」
「カズ君、今から向こうでぬいぐるみショーのリハーサルやるんだってさ。
おいたんと観に行こうか?」
俺はカズ君を抱き上げてステージ上で始まるリハーサルを観に行った。
「それじゃ、俺は手伝いの内容をスタッフから聞いてきます。
かずゆきお願いしても良いですか?」
「うん、任せといて。」
ニノはそう言って若干俺とカズ君を気にしながらスタッフの方へ向かった。
カズ君はぬいぐるみショーに夢中で身体を左右に揺らしながら楽しんでる。
「んふふっ。やっぱこういうの好きだよな?」
犬のお巡りさんやどんぐりころころとポリュラーな動揺に合わせて
ぬいぐるみが簡単な振りで踊ってる。
スーパーの開店前のリハーサルって事も有って
客席は俺とカズ君の二人だけっていう、最高の贅沢を味わう。
「大野さん!」
そんな事をしていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「ふ、風磨?」
「大野さん、何してるんすか?」
「お、お前こそ何でここに居るの?」
「大野さんがイベント班の応援だって聞いたから、僕も上に頼んで
応援組に入れて貰ったんですよ。」
「えええっ?マジで?」
「誰?その子?」
「え・・・あ、いや・・・」
最悪のタイミングでニノが戻って来た。
「あっ!菊池・・・くん?」
「あ、おはようございます。二宮さん。僕も今日は応援組なんで宜しくお願いします。」
「そ、そうなの?」
「ところでその子、何なんですか?」
「あっ、かずゆき、おいで・・・」
「えっ?もしかして二宮さんの?」
「お、おいらが連れて来て良いって許可したんだ。」
「そうなんですか?」
「えっと、手伝いなら裏のテントで指示聞いてきたら?」
「あ、はい・・・分かりました。」
風磨はニノとカズ君をじろじろ見ながら不満そうな顔でステージの裏手に去って行った。
「ビックリした。まさか風磨も応援組だったなんて。」
「知らなかったんですか?」
「知らない。おいらが応援組だと聞いて急遽上に頼んで参加したとか言ってたから。」
「凄いな。よっぽどあなたと一緒に居たいんだ。」
「参るよなぁ。」
「だからあの時協力するって言ったのに・・・」
「う、うん・・・」
「もう今更遅いですよ。あなたが自分で何とかするって言ったんだから
俺は知りませんからね。あ、かずゆきはこの向かいの託児所に預けてきます。」
「えええ?何で?」
「仕事になんないですし、菊池君から突っ込まれたら嫌だし・・・」
「ま。待ってよ。託児所なんて可哀想だよ。おいらが責任もって面倒みるよ。
風磨にも何も言わせない。だから、ニノは心配しないで。」
「えええっ?でも・・・」
どうせ裏方の手伝いだし、風磨も来てるから大した仕事量じゃないのは分かってる。
自分からカズ君を連れてくるように言った手前、今更邪魔者扱いなんて出来ない。
だから、俺はカズ君の面倒を見ようと決めた。
不安そうなニノを手伝いに戻して、俺はリハーサルの終わったぬいぐるみの傍に
カズ君を連れてった。
「ほぉら、ぬいぐるみさんだよ。カズ君、握手して貰おう。」
カズ君が、ぬいぐるみに手を伸ばしたその時だった。
突然その犬のぬいぐるみを着ていた演者がフロアーに倒れ込んだ。
「えっ?」
「三浦くん?三浦くん大丈夫?」
もう一人の着ぐるみ脱いだ演者がそう叫びながら駆け寄り周囲が騒然となった。
倒れたぬいぐるみの彼は、その後救急隊に担架で運ばれて行った。
どうやら、過労が続いてて酸欠状態になったらしい。
「大野さん、ちょっと急いで来てもらえますか?」
「え?あ、うん・・・」
何だろう?俺はスタッフに呼ばれてカズ君を抱いたまま
皆が集まってるテントに向かった。
「大野さん、着ぐるみの代役お願いします。」
「え?」
「今犬役の子が倒れて演者が足りないんですよ。」
「いや、おいら着ぐるみなんて・・・」
「もう時間あまり無いんです。
今空いてるのって大野さんだけなんですよね。」
「ま、マジで?」
「あっちで、簡単な説明をしてくれるそうなんで・・・」
スタッフが指差した先にはさっき三浦君とか叫んでた子が
俺の方に深々と頭を下げて挨拶してる。
「に、ニノ、ゴメン。おいら行って来るからカズ君を頼むよ。」
仕方なくカズ君をニノに任せて俺は着ぐるみの演技の説明を受けようと
その演者の傍に駆け寄った。
つづく