第2章
急接近④
「奈緒ちゃんって誰?」
ニノが潤君の話を聞いて、直ぐに俺に質問してきた。
「えっ・・・」
「大野さんの彼女だよ。」
「ちょっと、潤君、やめてよ。」
「へえ。あなたって彼女は居るんだ?」
「違う、違う。奈緒ちゃんってのは、うちのアシスタント。従業員さんだよ。」
「確定だな。」
潤君が、そう訳の分からないことを言ってクスクスと笑った。
「はぁ?」
「ううん、気にしないで。俺の独り言だから。」
そんなデカい声で独り言言うヤツが何処にいるんだよ?まったく・・・
「ニノごめん。今のは俺のジョークね。奈緒さんは本当にただのアシスタントさんなんだ。大野さんは完全にフリーだと思うよ。」
「だから、そういう余計な事言わないでいいよ。」
「松本さんは大野さんのお友達ですか?」
「いや、俺は大野さんとは仕事上の知り合い。」
「大野さんってどんな仕事してるの?」
「え?それも知らないの?」
「おいらとニノはまだ逢って3度目だもん。」
「へえ・・・。ここの常連客同士の知り合いだと思ってた。」
「おいらはイラストレーターの仕事してるんだ。潤君はファッション雑誌編集部の人。」
「へえ。だからオシャレなんだ。」
「本当だよな。潤君、自分でモデルも出来るんじゃない?」
「よく言われるけど、俺は裏方の仕事の方が好きだから。」
「言うことまでオシャレだな。」
「ニノは?何の仕事してるの?あ、シンガーソングライターだっけ?」
「でも、デビューしてないから、今はただのユーチューバーかな。」
「ユーチューバー?」
「おっ、凄いね。良かったらアカウント教えてよ。」
「あ、うん。たいしたことはないけどね。」
「ねえ、ユーチューバーってアレだろ?動画で色々やるやつ。」
「ハハッ、大野さんも流石にYouTubeは知ってるんだ。」
「それくらい知ってるよ。あ、潤君って、マスコミに顔利くよね?なんとか力になってあげれない?」
「えっ?ファッションモデルならあっせん可能だけど・・・ニノって幾つなの?」
「俺、29歳。」
「ええ?俺とタメ?もっと若いと思った。」
「マジか。おいらも22,3かと思ってた。」
「そんなに若くないですよ。」
「いやぁ、デビューするにはちょっと遅咲きすぎるかな。」
「でも、見た目は若いからなんとかなりそうな気はするけど、無理なのか?」
「モデルならピンキリだから、それだけ見た目が若けりゃ行けそうな気がするけどな。彼、可愛いし。大野さん、タイプでしょ?」
「えええっ?だから、タイプってニノが勘違いするじゃんか。」
「まあ、モデルから芸能界入るヤツも沢山居るし、本気でやる気あるなら口利いてあげてもいいよ。」
「マジか?ニノ、お願いしてみたら?」
「えっ?モデルとか俺出来ないよ。」
「何もファッションショーに出るようなモデルでなくても良いんだからさ。今は読者モデルってのも沢山居るしね。」
「うーん、でも・・・」
「やってみるべきだよ。でないと、この前みたいなオッサンにまた騙されちゃうよ。」
「騙されたの?」
「世の中悪い奴等ばっかだからな。潤君は間違いなく裏切らないから。」
「あ、うん。良かったら名刺あげとくから、その気になったら連絡くれていいよ。グラビア担当に直ぐに話してあげられるから。」
ニノは潤君から名刺を受け取って、それをシッカリと確認してた。
「ホント、凄いね。大きな出版社なんだ・・・でも、どうして初対面の俺にそこまでしてくれるの?」
「あ、そりゃあ、君の信用うんぬんより、俺は大野さんって人に厚い信頼を寄せてるからね。仕事でも散々お世話になってるし。」
「そ、そうなんだ。あなたも何か凄い人なんだね?」
「ええっ?もぉ、潤君の言い方が大袈裟だから、ニノが引いてるじゃんよ。」
「大袈裟なもんですか。俺はあなたとはフリーになる前からの付き合いだからね。大野さんにはとにかく幸せになって貰いたい。それだけですよ。」
「ゴメンね、ニノ。潤君ちょっと酔っ払ってるの。いつもはこんなこと言わないんだけどね。軽く流して聞いといて。」
「あ、酒は飲んでるけど、俺そこまで酔ってはいないからね。そのモデルの話はちゃんと覚えてるから。」
「う、うん。ありがとう。」
「あっ、大野さん、俺そろそろ帰ります。」
「ええ?今来たばっかりじゃん。」
「あなたは明日から4連休だろうけど、俺は明日も仕事なんで。」
「そうかぁ。それじゃ引き留められないね。」
「邪魔者は消えますからお二人はどうぞごゆっくり。」
意味深にニヤリと笑う潤君。
「邪魔者?」
「いいの、いいの。潤君の言う事は聞き流して。」
「それじゃ、お先に。ニノ、連絡待ってるから。またね・・・」
「あ、なんかすみませんでした。」
潤君が店を出て行った後、店内は俺とニノの二人っきりになった。
「・・・それじゃ、俺もそろそろ帰ろうかなぁ。」
「え?もう帰っちゃうの?」
「だって、俺スマホを取りに来ただけだし・・・」
「いいじゃん、おいら明日から休みなんだ。奢るからもうちょっと付き合ってよ。」
「い、いいけど・・・」
どうして引き留めたかっていうと、ニノはマスターに俺の事を根堀り葉堀り聞いていたというから、それがどうしてなのかがずっと気になってた。
つづく