
第4章
急展開⑤
「あなたもお風呂入って来たら?」
「う、うん・・・」
ニノがスェットの寝間着姿で部屋に戻って来た。今夜これから一緒にベッドに入るんだって思っただけで緊張して来て、俺はニノから逃げ去るように風呂場に向かった。
俺から想いを伝えられないうちは、ニノに指一本たりとも触れるわけにはいかない。
そうしないと、口では協力するとか言っておいて、実は身体が目的だって思われたりしたら、あのいつかのBarでニノのこと騙そうとした最低スケベ親父とやってる事は同じだって思われる。
それだけは避けたいし、今はニノから絶対嫌われたくない。
何も焦る必要なんてないんだから、徐々に距離を縮めてって、それからでもきっと遅くない。
俺はなんとか不埒な衝動を抑えて平常心になって風呂から上がり、部屋に戻った。
ニノは既にベッドに入ってて、壁側の方に身体を横向きにして寝てた。
「ニノ?もう寝ちゃったんだ?」
やっぱり平気な顔して一緒に寝るなんて言ってたけど、実際は照れくさいんだよな。意外に可愛いとこある。
俺は暫く椅子に座ってスマホ弄ったりしてたけど、身体も冷えてきたからニノを起こさないように、そっとベッドの中に潜り込んだ。
「ニノ寝てんのか?」
小さい声で話し掛けてみた。
「・・・」
相変わらず俺の方に背中を向けて身動きしない。
「寝てんならそれでもいいや。」
って、囁くような声でニノの背中に向かって独り言をつぶやくように語り始めた。
「三鷹の公園の話だけど・・・あれさぁ、間違いなくおいらの事だよ。おばさんが話してくれなかったら、おいら気付かなかったかも。確かにあの時お母さんらしき女の人がカズって男の子の名前を呼んでたような気がする。それもさっき鮮明に思い出しちゃって。そうそう、おいら風船を取ってあげようと木をよじ登って、結構な高さから落下しちゃったの覚えてるか?おいら、あん時は平気な顔してただろうけど、全治2週間の捻挫しててさ、帰ったら母ちゃんにめっちゃ怒られたんだ。んふふふ・・・」
「やっぱり、そうでしたか・・・」
「えっ?お、起きてたの?」
「俺はさっきからずっと起きてましたけど。」
「ま、マジか?それじゃ返事くらいしてくれよ。」
「俺もね、小さい時の記憶だから確信は無かったんだけど、あの時名前聞いたでしょ。」
「え?そうだったっけ。」
「あなたは俺にさとしとだけ告げたんだ。だから、あなたの名前が大野智だと聞いた時、まさかねって思ったんですけど・・・」
「よくあんな小さい時のこと覚えてたね?」
「俺はあなたと約束しましたから。絶対また会えるって・・・信じてた。」
「な、なんかめちゃめちゃ感動するな・・・運命を感じる。」
「その通りですよ。あなたと俺は何処かで必ず再会する運命だったんだ。やっと・・・会えた。」
「え・・・」
ニノがそう言って俺の方に向き直ると、俺の体にしがみつく様に抱き着いた。
「あっ、えっ・・・」
ニノの身体が俺にピッタリと密着して、その両腕がギューッと愛おしいと言わんばかりに力一杯俺を抱き締める。
そこで、俺のニノに指一本たりとも触れないって決意はもろくも音を立てて崩れてく。
「に、ニノ・・・」
俺もごく自然にニノの細い身体をギュっと抱き締め返していた。
それにしても、なんてロマンチックな話なんだろう。これ以上のラブストーリー、俺はドラマでだって映画でだって観たことがないよ。
もしも本当にこれが俺達の運命だとしたら、それに逆らわずこのまま流れに身を任せてもいいのかなって・・・
ニノを抱き締めながら思ったりした。
つづく