
第4章
急展開⑧
「先生、おはようございます。」
「あ、奈緒ちゃんおはよう。」
「あら?今日は二宮さんはいらっしゃらないけど、何処かお出掛けとかですか?」
「えっ?ああ・・・ちょっとね。」
「ちょっとって?」
「えっ?今日は、ちょっと実家の方にね・・・」
「やった。それって喧嘩とかですよね?」
「はっ?」
「だって、実家に戻ったって事は、何か喧嘩でもして怒って帰ったってことですよね?」
「そ、そうじゃないよ。実家からお母さんがみえてたから、送って行っただけだよ。」
「なーんだぁ。つまんない。」
「つまんないって・・・」
「でも、今日は静かでイイですね。これで仕事にも集中出来ます。」
「ええ?仕事に支障を来すほど、ニノは仕事に口を挟んでないと思うけど・・・」
「先生は何も分かってないんです。敵同士が同じフィールドの中に居れば諍いが起きて当然なんです。」
「待ってよ。敵同士って・・・」
「敵です!私にとって二宮さんは最強の敵です。」
「何だよ?それ・・・」
「あっ、電話だわ。やだっ、噂をすれば敵かしら?・・・もしもし?大野イラスト制作事務所です。・・・あ、暫くお待ちください。先生、相葉さんて方からお電話ですけど。」
「え?あ・・・相葉君・・・はい、代わりました。大野ですけど。」
「あっ、もしもし大野さん?先日はどうも有難うございました。相葉ですけど・・・」
「こっちこそ、こないだはどうも。」
「大野さん、お宅の近くまで来たんで、ちょっとだけこれからお会い出来ればと思いまして。」
「あっ、そうなの?うち分かる?」
「あ、松本君から聞いてますんで、大丈夫です。」
「そっか。それじゃ待ってますよ。」
「お忙しいとかじゃないですか?」
「ぜーんぜん。大丈夫だから気を付けておいでよ。」
「分かりました。それじゃ10分程で向かいます。」
電話の相手は相葉くんだった。奈緒ちゃんとで仕事してると、奈緒ちゃんはニノの文句ばかりになるから、ナイスなタイミングだ。
「先生?相葉さんって、お知り合いですか?」
「え?あ、そうそう。奈緒ちゃんにもキチンと話しておこうと思ったんだけど、来年から小説の挿絵を描くことになったの。それで、今後は仕事も大変になると思うから人を増やそうと思ってるんだ。相葉君というのは、その挿絵の依頼人の小説家の人だよ。」
「ええっ?もしかして相葉って、あの相葉雅紀さんですか?」
「う、うん。知ってるの?」
「知ってるも何も、小説家の相葉雅紀さんといえば、いまや売れっ子の小説家さんですよ。時々コメンテーターでテレビにも出られてて・・・」
奈緒ちゃんが興奮気味に俺に説明する。
「そ、そんなに有名な人なんだ?」
「凄い!先生、おめでとうございます!そんな方の本の挿絵を依頼されるなんて、凄いですよ。」
「マジか。そりゃプレッシャーだな・・・」
「というか、人なんて増やさなくていいですよ。人件費勿体ないです。そういう事なら、私一人でも頑張りますし・・・」
「うん・・・でもやっぱり今後の事も考えるとさ、人は増やしておこうかなって。」
「二宮さんにも手伝ってもらえばいいじゃないですか?」
「えっ?だって・・・さっき奈緒ちゃんは同じフィールドがどうたらって・・・」
「仕事となると別ですよ!仕事は仕事ですから。」
「そうなの?ううっ・・・でもなぁ。」
「先生は二宮さんをそのまま専業主夫になさる気ですか?そんなの駄目ですよ!」
「いや、べつにそういうわけでも・・・」
「とにかく、そういう事情なら私もこれからは先生のプライベートにはなるべく入り込まないように努めますから、これ以上無駄な人員増やすのはよして下さい。」
「そ、そっかぁ・・・。」
ピンポーン・・・
「あ、いらっしゃいましたね。私コーヒー淹れてきますね。」
「あ、うん。ありがとう。」
奈緒ちゃんは100%が悪い子じゃないんだよ。仕事もさばけるし、ニノと上手くやってくれれば何も問題はないんだけど。
ニノの跡継ぎの問題もあるし、俺は何時までこの仕事を続けられるか分からなくなったし、奈緒ちゃんが言うように人員を増やすというのは今はやめておいた方がいいのかな。
「こんにちは~。大野さん、すみませんね。勝手に約束もしないで押し掛けちゃって。」
「ううん。今はそこまで急いでる仕事無いからちょうど良かったよ。散らかってるけど上がって。」
「ゴメン、大野さん。チビも一緒だけどいいかな?」
「チビ?」
「僕の相棒です。宜しく。」
「えっ?あっ・・・」
相葉君の手にはリード線が握られてて、その先にはチビどころかでっかいゴールデンレトリバーを引き連れていた。
つづく