
第4章
急展開①
何とかニノを説得して家に連れ戻した俺は、明日の対策を練ることにした。ニノのお母さんには何が有っても嘘を見抜かれるわけにはいかない。
だから万全の準備をしておく必要が有った。
「おばさん、何時ごろ来るのかな?」
「明日は休みとか言ってたから、多分東京の友達に会いに行くんだよ。その後寄るにしても夕方以降じゃない?」
「そうか。だったら夕食も準備しといたがいいかな?」
「いいよ。そんなのしないでも。お腹が空いてるなら勝手になんか作って食べるでしょ。」
「そ、そうは言うけどさ。」
「そんなことよりも、俺達が本当に同棲してるかのチェックされると思うよ。」
「チェックって、どんな?」
「まあ、心配しなくても俺が細かい事は演出しておきますよ。」
「例えば?」
「ほら、お揃いのスリッパでしょ、マグカップだったり、歯ブラシだったり・・・。こないだ買い物で全て揃えておいたから大丈夫。」
「そんなんで本当に信じてくれるの?」
「あー、それから指輪は明日はちゃんと嵌めておいてね。」
「あっ、そうだな。」
「それから、寝室なんだよ。問題は・・・」
「えっ?寝室・・・」
「今俺達は別々に寝てるじゃない。」
「それは言わなきゃバレないよ。」
「女ってのは鼻が利く動物なんですよ。」
「えっ?まさかぁ。」
「明日は朝からおーのさんのベッドに俺の枕は置いておきますから。」
「え、何で?」
「マーキングみたいなもんです。」
「マーキング?」
「ウフフッ、言い方は変だけど、似た様なものだよ。あとは~、そうだなぁ・・・」
ニノが顎に人差し指当てて考えを絞り出す。
「あ、そうそう、俺が飲み食いしたモノをあなた平気で食べたり出来ます?」
「それって、食いかけとか飲みかけってことか?」
「そうそう。」
「多分、出来ると思う。」
「ホントに?聞いとかないと、駄目な人もいるからね。」
「おいらそこまで潔癖でもないよ。」
「それじゃ、これ飲んでみて?」
「え?」
ニノがそう言って、おいらに飲みかけのコーヒーを手渡す。
「飲んでみて。」
「う、うん///」
俺は何の抵抗もなくそれをゴクリと飲み干した。
「大丈夫みたいですね。」
そりゃ、一応ニノとは一度きりとはいえチューまでしてるからな。
「う、うん///」
「何、赤くなってるんですか?フフフッ・・・」
「い、いや、そこまでチェックするかなぁと思ってさ・・・」
「さりげない仕草を女は見逃さないからね。」
「そういうもんか?」
「そういうもんです。」
「ニノは?ニノは抵抗ないの?」
「え?俺?俺は、全然平気だけど。なんなら、母さんの前でもキス出来るよ?おーのさんとなら。」
「ええええっ?」
「冗談ですって。なに、その慌てよう。」
そ、そりゃ慌てもするさ。ニノの口からそんな事聞いたりすれば・・・色々思い出して恥ずかしくなる。
ニノはその夜、なるべくプライベートを別けてシェアしてる雰囲気を出さない工夫をする為、あれこれと部屋の整理をしてた。
そして、いよいよ次の日がやって来た。
奈緒ちゃんには、プライベートで来客が有るから今日は緊急で仕事はお休みにすると電話で伝え、おばさんを迎える体制は整った。
夕方の5時頃、ニノのスマホに連絡が入る。
「これからこっちに向かうらしい。」
「そ、そうか。」
「ちょっと、緊張し過ぎじゃない?初対面じゃないんだからさ、もっとリラックスしててよ。」
「でも・・・」
「大丈夫だよ。母さん、あなたのこと気に入ってたみたいだし。いくら何でも交際を止めたりはしないよ。」
「ホントに?」
「本当ですってば。」
それから30分後、おばさんが家に到着した。
「何だよ?この荷物、家出してきたみたいじゃん。」
「大野さん、お邪魔しますね。」
「お母さん、いらっしゃい。狭いですけど、どうぞ。」
「あら、なかなか素敵なお家じゃないの。」
「お疲れでしょ?今お茶淹れますから。」
「あ、これ今夜のお夕飯にと思って・・・よかったら食べて。」
「え?わっ、ありがとうございます。」
「何?また旅館で余ったの持って来たんでしょ?」
おばさんは大きなスチロールの箱を俺に手渡した。
「おおっ、すげえ!カニじゃん!」
「へえ。凄いね?どうしたの?」
「お友達に頂いたのよ。今夜はカニすきにでもするといいかと思って。」
「なんか、すみません。こないだから頂いてばっかりで。」
「気にしなくていいのよ。あ、それでね、今夜悪いけどここに泊めて貰えないかしら?」
「はっ?何言ってんの?今日は箱根に戻るんじゃないのかよ?」
「本当はお友達のお宅に泊めてもらうつもりだったのよ。それが、息子さんの具合が悪くなっちゃって、流石に病人がいるお宅に泊るわけにもいかないでしょ?」
「ビジネスに泊れば良かったのに。」
「あ、あの、うちで良ければ泊って下さい。」
「おーのさん?」
「いいじゃん。わざわざうちが有るのに、ビジネスなんて可哀想だよ。」
「あぁ、大野さんって話が分かる人ね。カズとは大違いだわ。」
「ひと言余計だっての。」
「それじゃ、私が今夜はお夕飯の準備してあげる。大野さん、キッチンお借りするけど、いいかしら?」
「あ、勿論。」
こうして、ニノのお母さんは我が家に1泊することになった。
つづく