
急展開④
ニノのお母さんは、最初俺が思ってたよりも話が分かる人ってイメージだった。縁談話だって、きっとニノの将来のことを真剣に考えての事だったんだろう。
母親が自分の子供の幸せを一番に考えないわけがないもの。
ただ、話が分かる人だってところまでは有難いんだけど、突然話が飛躍するところにはさすがに戸惑った。
元々、シンガーソングライターになりたいというニノを助けて応援してやりたいってところから始まった話なのに、お互いの両親や親せきまで巻き込む事態に発展しそうなんだから、流石に俺も言い過ぎたかもって頭を抱えてしまった。
「ところで、あたしは何処で休ませてもらえばいいのかしら?」
「あぁ、母さんこっち・・・」
ニノが自分の部屋におばさんを案内した。
「ちゃんとゲストルームもあるのね?」
と、まったくそこが普段は息子の部屋になってるとは気付きもしない。ニノが昨日頑張って片付けた甲斐があった。
それからおばさんは、俺の仕事の話を聞いたり、俺の知らないニノの話をしたり、とにかく上機嫌で俺達と話をした。
「さっ、明日は朝早く戻らないといけないから、私はそろそろ休ませてもらうわね。」
「そんななら、わざわざ泊まらなくても、今日中に帰れば良かったのに。」
「だって、あなた達が本当に一緒に住んでるのかこの目で確認するまでは信用できないでしょ?」
「もうこれで分かったでしょ?」
「一緒に住んでる事はよく分かったわ。」
「まだ何か疑ってんの?」
「そうじゃないんだけど・・・」
「何なの?もうこれ以上証拠とか言われても何もないよ?」
「それもそうね。それじゃ、おやすみなさい。」
おばさんが部屋に入ってったのを見届けてから、俺達も寝室へ移動した。
「参ったね・・・。」
ニノがそう言って同時に部屋に置いてるテレビの電源を入れてベッドに腰を下ろした。話声が外に漏れない対策だと思うけど。
特に面白い番組ってやってなくて、落ち着かないのか、ずっとリモコンでチャンネルをあっちこっち変えてる。
「おばさん信じてくれたみたいで良かったじゃん。」
「そう?だけど、かえって話がややこしくなった気がするけど。」
「うちの両親のこと?」
「なんであんな事言ったんですか?」
「あんなことって?」
「俺のこと幸せにしてくれるんだ?」
「えっ」
「あれ?俺の聞き間違いだったのかなぁ。」
「いや、確かに言った。」
「嬉しかった。」
「ええっ?」
「分かってますよ。あれはその場凌ぎだってことも・・・でも、なんかそれでも俺は嬉しかった。」
「ニノ・・・」
「あんなこと、人にも俺言った事ないけど、言われたの・・・初めてだもの。」
「あ、あのさ、ニノ?」
「ありがとうね。ここまで協力してくれて。」
「あっ、いや・・・。」
その場凌ぎなんかじゃないんだって言おうとしたのに、「協力」って言葉聞いて途端に言えなくなってしまった。俺ってどうしてここまで根性なしなんだろう。
「今夜だけ我慢して下さいね。明日からはちゃんとまた自分の部屋で寝ますから。」
「ニノ、あのさ・・・」
「俺、風呂入って来ます。」
「あ、うん。」
ちゃんと言わなきゃと思えば思うほど言えなくなるのは何故だろう?ニノはニノで何処か俺から逃げてる気もするのは考えすぎだろうか。
俺の気持ちはとっくに協力とかを通り越して、完全に自分でも芝居なのか本気なのか分からなくなっていた。
つづく