
急展開⑦
次の朝、目が覚めるとニノが俺の腕の中ですやすやと眠ってた。
そ、そうか。夕べ、俺達・・・
俺は夕べのことを思い出し、また嬉しくなって思わず一人でニヤニヤと思い出し笑いしてしまった。
まだ、関係を持ったという訳じゃないけど、とりあえず自分の気持ちはちゃんと伝える事が出来たし、ニノもそれを受け入れてくれた。
それだけでも、俺らからすると凄い進歩なわけで、こうなるとこの先が楽しみな事ばかりってことになってくる。
「カズ?大野さん?いつまで寝てるの?そろそろ起きてくれない?」
ドアの外でおばさんの呼ぶ声がした。
「あっ、はーい。」
俺はニノの身体をゆすり起こした。
「ニノ、ニノ起きて!」
「う~ん。何だよぉ・・・まだ眠いよぉ。」
「んふふっ。おばさんが呼んでるって。」
「あっ、お、おはよ。」
「おはよう。」
俺は寝惚け眼の可愛いニノに軽くキスをした。ニノが照れくさそうに俺から視線を外す。
「んふっ。なんだ?恥ずかしいの?」
「そ、そうじゃないけど、夢かと思ってた。」
「夢じゃないよ。」
「うん///」
「今夜も一緒に寝るよね?」
「えっ?あっ・・・うん。」
その返事が聞けただけで、もう俺は嬉しくて朝からテンション上がりまくる。
「なんか今日もこれでおいら仕事頑張れそう。」
「単純だなぁ。」
とか言いながら、ニノも何処か嬉しそうだ。俺達は名残惜しみながらベッドから起き上がり、リビングへ移動した。
「おはようございます。」
「おはよ。母さん、よく眠れた?」
「ええ。お陰様でとっても良く眠れたわ。朝ご飯作っといたから食べて。」
「朝飯まで準備してくれたんですか?すみません。お客さんなのに・・・」
「いやあね。大野さんったら・・・もう身内も同然じゃないの。」
身内とか思ってくれるんだ?なんか最初は騙してたのに、結果としてここまで信用して貰えたって思うと、それは凄く感動だったりする。
「すっかり母さん、大野さんのこと気に入ったみたいね?」
「そりゃあ、跡取りが二人も出来たんだもの。楽しみで仕方ないわぁ。」
「え?ま、待って!今なんて?」
「何よ?母さん何もおかしなこと言ってないわよ?」
「跡取りって何の話だよ?」
「ええっ?跡取りは跡取りじゃない。」
「母さん、まさか大野さんと俺に旅館継がせようとか思って無いよね?」
「継ぐとか継がないとかは、今直ぐ考えなくても大丈夫よ。私も父さんもまだまだ働けるし。」
「だったら・・・」
「二宮家を継いで貰わないと、うちは親戚も含めて男の子はあんた一人なんだもの。それはカズだって分かってることでしょう?」
「いや、だからって。」
「ほら、さっさと着替えてご飯食べなさい。母さん、カズに箱根まで送って貰うから。」
「えええっ?電車じゃないの?」
「荷物が沢山有るから電車じゃ無理よ。」
「んもぉ!身勝手過ぎるよ。」
「ニノ、おばさん大変だから送ってあげなよ。」
「ええっ・・・」
ニノと俺が付き合っていることへの疑いは晴れたみたいだけど、どうやらおばさんは俺達二人に一緒になって旅館を継がせたいらしい。
これまた意外な展開というか、俺達は再び大きな問題を抱えてしまった。
ニノが自由になれると喜んでいたのはつかの間の話だった。今直ぐという事ではなさそうだけど、そうなると俺の仕事もこの先出来なくなるってことか?
旅館の経営なんて、素人の俺には絶対に無理だ。でも、それが出来ないと断れば、再びニノは俺から引き離されるだろう。
ニノは不服そうな顔で朝飯を食った後、渋々と箱根までお母さんを送って行った。
そして、いつもの様に奈緒ちゃんが仕事に出勤して、何事もなかったかのように一日が始まった。
つづく