鍵のかかった部屋 大宮編
第11話
「只今戻りました・・・」
「あっ、お帰りなさい。早かったですね?」
「思ったよりも用事がスムーズに終わりましたんで。」
「仕事だったの?」
「ええ・・・」
「弁護士事務所って休日まで働かなきゃいけないんだね。」
「いえ・・・今日は別の案件です。」
「別の案件?榎本さんって副業もしてるの?」
「副業というか・・・どちらかというとこっちの方が本業です。」
「え?こっちって?」
「セキュリティシステムです。」
「あー、なるほどね。セキュリティの方がお金になるの?」
「案件にもよります。」
「あっ、うちの鍵みたいな?」
「いえ。あれはむしろ赤字です・・・」
「えっ?そうなの?何か・・・ごめんなさい。」
「謝る必要は有りません。僕が勝手に請け負った仕事ですので。」
松本さんって人が来た事、話しておくべきだろうか?
でも、それを言えば鍵が届いた事も話さなきゃならなくなる。
数日黙っておいて、鍵を預かったこと自体を
忘れてたことにすればいいかな。
そんなの有り得ない?
でも・・・
鍵の設置が終われば俺がここに住み着く意味がなくなる。
俺はどうしてもあと少し榎本さんの事を知りたいんだ。
べつに自分ちの鍵だし、なにも泥棒しようって訳じゃ無い。
数日忘れたからといって犯罪にはならないだろう。
「これ・・・お土産です。」
「わっ!メロン?」
「はい。もしお嫌いでなかったらどうぞ。」
「メロン嫌いな人なんてこの世に居るの?」
「分かりませんよ?世界中を探せば複数居たりするかも知れません。」
「これ、頂いたの?」
「いえ。買って来ました。」
「ええっ?わざわざ?」
「はい。」
「榎本さん、メロン好きなんだ?」
「・・・そういうわけでは。」
ん?メロンそこまで好きじゃないのに買って来る?
ってことは、この俺の為にわざわざ?
「うわぁ、ありがとう。それじゃ早速冷やして後で一緒に食べようね。」
「何か変わった事は無かったですか?」
「えっ?あ・・・ううん・・・特には・・・」
「そうですか・・・」
俺はもう後に引けない嘘をついてしまった。
だって、榎本さんだって帰ってきて俺が部屋に居ることを
歓迎してくれてるからお土産とか買って来てくれるんでしょ。
本当に迷惑だったら居候にお土産なんて俺なら絶対買わないよ。
「今日は暑かったんで、汗まみれなんです。
僕は先にシャワー浴びてきます。」
榎本さんはそう言うと、いつも掛けてる眼鏡を外して
テーブルの上に置いた。
その、眼鏡かけてない榎本さんの顔がめちゃめちゃ綺麗で
俺は思わず見惚れてしまった。
「僕の顔に何か付いてますか?」
「えっ///あ・・・いや・・・その・・・
目と鼻と口が付いてる。」
咄嗟に聞かれたから俺は自分でも何言ってんの?
ってくらい馬鹿なことを言ってしまった。
榎本さんはそんな俺の様子を見て、またクスクスと笑い出した。
榎本さんが笑うと、どうしてか俺は嬉しくなる。
何でだろう?俺って榎本さんに母性でも感じてるのかな?
普段堅物な人が自分のことで笑うとホッとするんだ。
それに一緒に居ると安心する。
これは俺の勝手な解釈だろうけど、守られてる安心感とでもいうか。
ただ、俺自身がまだこの気持ちが好きだって事に気付くのは
もう少しだけ先の話なんだけど・・・
「二宮さん?」
「はい。」
「僕、今日は昼食を取る暇が無くて、実は腹ペコなんです。
夕飯出来てます?」
「あ、勿論。」
「あぁ、助かります。それじゃ先にシャワー浴びてきますね。」
「う、うん。」
榎本さんがシャワー浴びてる間に俺は大急ぎで
作っておいたカレーを温めて直ぐに食べれるように
食卓に並べた。
つづく