鍵のかかった部屋 大宮編
第14話
「えっ・・・」
「僕は構いませんよ。」
「ど、どうして・・・」
「恐怖心を抱えたままでは例え鍵が取り換えられたとしても
落ち着いて休むことは無理かと思われますから。」
「でも・・・それだと榎本さんが・・・」
「僕が良いと言ってるんです。他に何か問題でも?」
「う、ううん。そうじゃないけど・・・」
榎本さんはそう言うと、工具箱を持って自分ちの方に歩き出した。
あまりにも予想外の展開に俺は放心状態でその場に固まってしまった。
「どうしました?戻りますよ?」
榎本さんはこちらを振り返らず、真っ直ぐ前を向いたまま
俺にそう話し掛けた。
俺は慌てて小走りに榎本さんの後を追った。
てなわけで・・・
俺は再び榎本さんちで生活を続ける事になった。
榎本さんは単に優しいだけなんだろうか?
鍵が届いてたのに直ぐにそれを伝えなかった事や
強盗なんていないのに、遭遇したと芝居して
自分のことを試されたりしてるのに・・・
こんな訳の分かんないことされても
俺のお願い聞いてくれるなんて
榎本さん、お人好しにも程が有る。
俺としてはめちゃくちゃ嬉しかったけど
ここまで来ると、何だか本当に申し訳なく思えて来た。
そして、俺達は何事も無かったかのように
普通に晩御飯を食べて、風呂に入った。
榎本さんはその夜は自分の部屋に籠りっきりだ。
俺はてっきり仕事でもしてるんだろうと思って
邪魔しない様に大人しくリビングでゲームをしていた。
それにしても、もう時計は午前0時を回ってる。
何時もならキッチンや洗面所をウロウロするんだけど
今日は居るか居ないかも分からないくらい
一切気配がしない。
俺はちょっと心配になって、榎本さんの部屋へ様子を見に行った。
「榎本さん・・・?」
扉をノックしながら呼び掛けるけど、応答がない。
「榎本さん、入りますよ?」
正直、寝室に入るのはこれが初めてだから
若干ドキドキしながら寝室のドアを開けた。
ガチャッ・・・
内側から施錠されてなかったから、簡単にその扉は開いた。
中に入ると、ベッドの上にうつ伏せになり倒れてる
榎本さんを見て、俺は慌てて駆け寄った。
「え?榎本さん!榎本さん?」
俺は必死で榎本さんの身体を揺すった。
「ん・・・あ・・・二宮さん・・・」
「あぁ・・・生きてた。良かったぁ・・・脅かさないでよ。」
とはいうものの、榎本さんは意識朦朧としてる。
「ど、どうしたの?大丈夫?・・・えっ?凄い熱!」
一瞬だけ触れた榎本さんの頬が尋常じゃないくらい熱くて
俺は驚いて、今度はちゃんと額の上に手のひらを当てた。
「あ、熱っ!大変、凄い熱だよ?お医者行かなきゃ。」
「大丈夫・・・寝てれば・・・治りますので・・・」
「で、でも・・・」
「ただの・・・風邪なんで・・・」
「何言ってんの。こんなに熱有るのに。いいから、とにかく待ってて!」
俺は急いで市販の解熱剤とか体温計を自宅に取りに戻った。
榎本さんちにも有るだろうけど、何処に収納してるかも分からないから
こういう時は自分ちの方が手っ取り早い。
「榎本さん、着替えはクローゼット?勝手に開けるけどいい?」
「あ・・・すみません・・・」
俺は部屋着と下着を探し出すと、ベッドに横たわる榎本さんに
「着替え出来ます?・・・無理だな・・・」
「え・・・」
俺は返事を待たずに榎本さんの着ている服を上着から脱がし始めた。
榎本さんは抵抗したそうなんだけど、高熱でそれどころじゃなさそう。
大人しく俺にされるがままの榎本さん。
流石にズボンを脱がせたら、死ぬほど必死に抵抗された。
「うぅっ・・・そ、それは自分で・・・」
「えっ?そう?」
気持ちは分かるから俺はパンツを榎本さんに渡して背中を向けた。
着替えを終わらせて、改めて体温計で熱を測った。
「うわっ、39度3分も有るじゃん。とりあえず、解熱剤飲んで。
これ市販のヤツだけど、これで効かない時は医者に診せないと。」
それからアイス枕と冷水で冷やしたタオルを額に乗せ
俺は心配だったから、高熱で苦しそうな榎本さんに
一晩中付き添って看病を続けた。
つづく