鍵のかかった部屋 大宮編
第17話
「あっ、二宮さん!こっちです!」
マイカーで弁護士事務所に向かうと、玄関の前であの青砥という女弁護士が
俺の到着を待ってくれてた。
「現場まで案内してくれるんだよね?乗って!」
俺は彼女を助手席に乗せて車を発進させた。
「で?何処なの?」
「川崎です。」
「事件って何の?」
「密室殺人です。」
「さ、殺人?」
「自殺を装った不自然な事件なんです。」
「榎本さんはそこで何してるの?」
「密室の解明です。榎本さんはこれまでも数々の事件を
紐解いて下さって、うちの事務所は榎本さん無しには
考えられないんですよ。」
「へえ・・・あの人凄いんだ?」
「何もご存知ないんですか?」
「え?うん・・・」
そう言われてみれば、俺はまだあの人の事を何も知らない。
知っているのはカレーが好物だとか、俺に時々見せる笑顔だったりとか。
「榎本さんが高熱出したって本当ですか?」
「あ、うん。夕べ40度近く熱出して、自宅のベッドに倒れてたんだ。」
「ひと言もそんな事言ってくれないから全然気付かなかった。」
「今朝は熱は下がってたんだ。でもまだ微熱があったから
今日はゆっくり休むように言っておいたのに・・・」
「ごめんなさい。あたしが榎本さんに事件の事をお話したばかりに・・・」
「悪いのはあの人だよ。自分の身体は自分が一番良く分かってるのに。」
「あ、ここです。二宮さんはちょっとここで待ってて下さい。
現場は部外者の立ち入り禁止なので、私が榎本さんを呼んできます。」
「うん、頼んだよ。」
俺は事件の現場となるマンションの玄関前に車を停車させて
青砥さんが榎本さんを呼んできてくれるのを待ってた。
青砥さんが車を降りて数分後、一人の見知らぬ男が俺の車に近付いて来て
運転席側の窓をノックするから、俺はなんだろう?と
うかつにも窓を開けてしまった。
「あなた、榎本さん・・・ですよね?」
「えっ?」
それは、一瞬の出来事だった。
俺は突然口元にタオルを当てられ
恐らく催眠ガスのようなものを吸わされた。
そこからは記憶が一切途切れた。
どのくらい眠ってただろうか?
気が付くと、俺は倉庫らしき所に連れて来られてて
両手足は縄で縛られ、猿ぐつわをされていた。
どうやら事件に巻き込まれてしまったらしい。
「気が付いたか?名探偵さん。」
「うう・・・うううっ・・・」
必至で声を出すけど口を塞がれてるから言葉にならない。
「お前らがあの事件を探ろうとするから悪いんだよ。
あれは自殺だと警察も認めてるのに・・・
余計な事ばかりしやがって。悪いが今から君にも死んでもらう。
時限装置を仕掛けておくから、あと1時間後には
この倉庫ごと爆破される。君さえ居なくなれば
この事件は自殺ってことで幕を閉じるのさ・・・
フフフッ、心配要らない。君の身体ごと吹っ飛ぶから
遺体の身元だって判明することは不可能なんだ。」
な、何だって?狂ってるな。
こいつ、事件の犯人ってことか?
っていうか、俺の事を榎本さんだと勘違いしてる。
でも・・・勘違いだと分かれば今度は榎本さんに危険が及んでしまう。
時限爆弾?1時間後?
ど、どうしよう・・・
必至にもがくけど、しっかり手足を縛られてるから
どうする事も出来ない。
その男は、薄ら笑みを浮かべながら俺の目の前で時限装置のスイッチを入れ、
倉庫に鍵を掛けて去って行ってしまった。
俺が居なくなった事は青砥さんが絶対不思議に思うはずだ。
ただ、ここから現場までどの位距離が離れてるのか・・・
下手すりゃ俺の事を探してる間に爆破してしまうかも。
嫌だよ。まだ死にたくない!
クソッ!何でこんな事に・・・
俺はゴロゴロと身体ごと倉庫の扉まで転がり
必至で縛られた両足で何度も何度も扉を蹴った。
当然扉はビクともしない。
それでも、誰かが扉の前に来れば異変に気付くはず。
俺は他にどうする事も出来ないものだから
ひたすら扉を蹴り続けた。
一方、その頃・・・
「あれ?おかしいな。ここで待ってるように言ったのに。」
「青砥さん?二宮さんの車を降りてからどの位経ちます?」
「え?まだ5分位かな?」
「ちょっと電話してみます。・・・着信になるのに出ない。
何かおかしいですね・・・」
「あ、榎本さん?何処行くんですか?」
「僕の車にGPS専用のタブレットが有るんです。」
「はぁ?GPS?」
「二宮さんはうちのスペアキーを持ってるんですが
僕の家の鍵には全てGPS機能を付けてるんです。」
「待って、私も行きます。」
「・・・川崎港の倉庫?何でこんな所に?」
「榎本さん、もしかして?」
「はい、僕も今同じことを考えてました。
二宮さんは、きっと僕と間違えられて犯人に拉致された
可能性が有ります。」
「い、急がないと。」
榎本さんは奇跡的な直感で俺の居場所を突き止めてくれた。
だけど、時限装置の残り時間は既に40分を切っていた。
つづく