鍵のかかった部屋 大宮編
第18話
「あっ、あれ、二宮さんの車です。この倉庫の中ですかね?」
榎本さんと青砥さんはGPS機能を使って直ぐに
俺の居場所まで辿り着いた。
外から二人の声が聞こえたので、俺は倉庫の扉を再び激しく蹴って
自分の存在を知らせた。
「二宮さん?二宮さん、そこに居るの?」
「間違いないでしょう。返事をしないのはおそらく
猿ぐつわか何かをされてるからです。」
「駄目だ。鍵が掛かってる。榎本さん・・・」
「頑丈な鍵ですが、こんなの直ぐに開けられますよ。」
この時、時限装置の数字は残り25分。
榎本さんはものの5分でその扉の鍵を開けた。
「に、二宮さん!大丈夫ですか?」
「うううっ・・・」
「今助けますから。」
青砥さんが縄と猿ぐつわを急いで外してくれた。
「榎本さん!」
「もう大丈夫ですよ。何処か怪我は?」
「ううん、俺は大丈夫。だけど、早く逃げないと。」
「え?」
「時限装置を仕掛けてあるんだ。あと20分も無いよ。
ほら、あれ見て!」
俺は時限装置を指差して必死に訴えた。
「時限装置?」
「・・・青砥さん、二宮さんを連れて出来るだけ離れた場所へ
逃げて下さい。」
「えっ?榎本さんは?」
「僕は今からこの時限装置を解除します。」
「む、無理だよ。そんなの・・・」
「そうですよ。榎本さんも一緒に逃げて下さい。」
「大丈夫です。いいから二人は早くここから離れて下さい。」
「い、嫌だ!俺もここに居る。」
「二宮さん?」
「どうなっても知りませんよ。確実に解除出来るかは
僕は保証出来ませんよ?」
「俺はあなたを信じるよ。どうせ、あなたが来てくれなかったら
俺はどうなってたか分からないんだし・・・」
「そうですか・・・では、青砥さん、あなたは逃げて下さい。」
「そ、そんな・・・」
「大丈夫、それより急いで警察に知らせて下さい。
あの事件が他殺だった事はこれで明らかになった。」
「でも・・・」
「いいから、早く行って下さい。時間が無い!」
「わ、分かりました。直ぐに助けを呼ぶんで
解除出来ない時は二人ともギリギリでも必ず逃げて下さい。」
とりあえず青砥さんを避難させて、榎本さんは時限装置の解除作業を始めた。
残された時間はわずか15分・・・
間に合うのか?
時限装置の本体の蓋を簡単に開けた榎本さんは
中の配線を見て、暫く目を閉じて顔の横で指を擦り
ジッと何かを考え事を始めた。
「え、榎本さん?」
「・・・」
「あと5分ちょっとだよ?」
「分かってます。」
分かってると言っても、一つ間違えば終了・・・
俺はいよいよ怖くなって、後ろから榎本さんに抱き着いた。
「二宮さん・・・」
「ゴメン、こうしておけば落ち着くから・・・」
「んふふ・・・僕も落ち着きます。」
「え・・・」
「そうか・・・そうだったのか・・・」
「は?」
「安心して下さい。もう解除するコードが分かりました。」
「ホント?」
「はい、今から切断します。」
「し、失敗とかしないの?」
「たぶん・・・」
「たっ、たぶんって・・・」
「まあ、間違ってた時はあの世でまたお会いしましょう。」
「え、榎本さん。」
「それじゃ、切断しますよ?」
俺は榎本さんのその合図を聞いて、ギュッと目を瞑って息を止めた。
カチッと配線を切断する音が聞こえた。
それからまるで時間が止まったかのような静寂が流れた。
「・・・あ、あの・・・?」
「終わりましたよ。」
「えっ・・・」
「解除は無事に成功しました。」
俺は榎本さんの背後から抱き着いたままの状態で
恐る恐る時限装置を覗き込んだ。
すると、残り58秒のところで時間が止まってて
本当にギリギリで榎本さんが解除に成功したんだってことを認識した。
榎本さんは俺の方を振り返り、完全にビビッて泣きそうになってる
俺の顔を覗き込むと、ニッコリと微笑んだ。
こんな優しい表情の榎本さんを見たのは初めてだった。
「あなたをこんな目に遭わせてしまって、本当にすみませんでした。」
「ほ、本当だよ・・・榎本さんのバカ!」
俺は榎本さんが好き・・・
自分の心が完全に榎本さんに揺らいでいることに
ハッキリと気付いたのも実はこの時だった。
俺は泣きながら榎本さんの胸に飛び込んだ。
榎本さんも、そんな俺を優しく受け止めてくれた。
それから30分後、青砥さんがぞろぞろと警察を引き連れて
倉庫に戻って来た。
俺は犯人の顔を見てるから、そのまま事情聴取を受ける事になり
パトカーで榎本さんと警察に向かった。
つづく