
鍵のかかった部屋 大宮編
第22話
俺としては弁護士事務所での仕事は危険が付き纏うから
辞めて欲しいとは思ってたけど、まさか本当に辞めるって
榎本さんの方から言い出すなんて思ってもみなかったから
驚いてしまったんだけど、それよりも急に引っ越すとか
俺としては予想外の展開過ぎて、咄嗟に思い付いた提案が
自分の家でルームシェアしよう・・・なんて、
幾ら何でも無茶振りなのは百も承知だったんだけど
そうでも言わなければこのまま榎本さんとは
最後になってしまうかもしれないって・・・
俺としても、それだけはどうしても避けたかったんだと思う。
まだ返事を躊躇ってはいたけど、首を横に振った訳じゃ無いし
きっと榎本さんは「構いませんよ。」って
あの時みたいに言ってくれるって俺は信じてた。
少し考えたいと言ってた榎本さんは
結局は数日経っても連絡すらくれないから
俺はちょっと心配になって榎本さんの自宅を再び訪ねた。
インターホンで呼び出すけれど、応答が無い。
仕方なく次の日も訪ねてみたけど、やはり留守なのか
自宅に居る気配すらしない。
もしかしたら、また部屋で倒れてたりして・・・
俺は胸騒ぎがして、榎本さんの携帯に電話を入れてみた。
『お掛けになった番号は、現在使われておりません・・・』
えっ?何で?
アドレスに登録してあるのをタップしてるだけだから
掛け間違えは絶対にない。
急に携帯変えるにしても番号まで替えるかな?
とりあえず弁護士事務所はまだ辞めてないはず。
青砥さんに聞けば何か知ってるかも・・・
俺は急いで事務所に電話をしてみた。
「もしもし?あの、青砥さんいらっしゃいますか?」
「え?あ、はい、青砥ですけど・・・あ、その声は二宮さん?」
「青砥さん?榎本さんは?」
「榎本さんは昨日付けで辞められましたけど。」
「え?昨日?」
「二宮さん、今ご自宅ですか?」
「あ、うん。」
「ちょっとお話しておきたい事が・・・」
「あ、あのさ、携帯繋がらないんだよね。青砥さんは
榎本さんの携帯番号知ってる?」
「そのこともひっくるめてお話しておきたい事が有るんです。
電話では何ですから、後ほど二宮さんのお宅にお邪魔しても良いですか?」
「う、うん。いいけど・・・」
榎本さん、本当に仕事辞めちゃったんだ・・・
青砥さんは何か事情を知ってそうだから
後でしっかり確かめないと・・・
とりあえず、急病で倒れてるかもって心配は無さそうだ。
だけど、連絡が途絶えてしまった事にはやはり不安を覚えずには
いられない。
そして、夕方頃仕事を終えた青砥さんが
ようやく俺の自宅にやって来た。
「こんにちは。すみませんね、急にお邪魔して。
あ、これ良かったらどうぞ召し上がって下さい。」
「え?メロン・・・」
「あっ、お嫌いでしたか?」
「ううん・・・メロン嫌いなヤツなんてこの世に居たりするの?」
「そうですよねぇ。」
これ、前にも俺が榎本さんに言ったセリフだ。
「散らかってるけど上がって。」
「いいんですか?それじゃちょっとだけお邪魔します。」
「それで、榎本さんは今何処なの?」
「それは・・・分かりません。」
「え?」
「二宮さん、榎本さんのことお好きなんですか?」
「な、何で?」
「これ・・・榎本さんから預かったんです。
二宮さんに渡してくれと・・・」
青砥さんが鞄の中から取り出した封筒は
榎本さんが俺宛てに書いた手紙だった。
「て、手紙って・・・随分またアナログだな。」
「フフッ、榎本さんらしいですよね。
だけど、ラブレターなんて羨ましいな。
なんかSNSが便利な世の中だからこそ逆にそういうのって
胸キュンですよね・・・」
「ラ、ラブレター?」
「榎本さんは二宮さんの話をする時が
一番幸せそうな顔するんですよ。ほら、普段は人になんて
全然興味無いって感じなのに・・・
きっと、本当に大切な人なんだろうなぁって。」
「ほ、本当に?」
「本当ですよ。それに、榎本さんがこの仕事を辞めたいと
思ったきっかけは、二宮さんみたいだし・・・
あたし、同性愛はよく分からないけど、
榎本さんと二宮さんならお似合いだと思うんですよねぇ。」
「でも・・・それなら何故俺に行き先も言わずに姿消したりするのかな?」
「とりあえず、そのラブレター読んでみたらどうです?」
「あ、うん。」
『二宮さんへ
先日はルームシェアのお誘いを頂き、有難うございました。
折角ですが、僕は次なる仕事が入ってますので
暫くとある場所で生活することとなりました。
短い間ではありましたが、本当にお世話になりました。
ご挨拶もせずに姿を消してしまう事をお許しください。
榎本径』
「これって・・・ラブレターなんかじゃないよ。」
「でしょうね。」
「でしょうねって・・・」
「二宮さん、ご存知とは思いますけど・・・
榎本さんって凄くシャイな方なんですよ。」
「うん・・・それは俺も知ってる。」
「自分から告白というよりも、恐らく相手の押しに相当弱い人だと思うんです。」
「よく見てるね・・・」
「本当は、これ口止めされてるんですけど、自分でもお節介だなって
分かってるんですけど、これ言わないと絶対後悔するって思って
それで今日はそれを伝えに来たんです。」
青砥さんは真剣な表情で俺に訴えるように語り始めた。
つづく