
鍵のかかった部屋 大宮編
第5話
俺が恐る恐る玄関に向かうと、シーンと静まり返って
人の気配など感じなくなってた。
それでも確かに何者かがうちの玄関の鍵を開けようとしてたんだ。
やっぱり、榎本さんの言う通り俺の鍵を故意にすり替えた犯人が
強盗に入ろうとしてたのだろうか?
そう考えたら俺は本気で怖くなって、堪らず隣の榎本さんに助けを求めに行った。
「榎本さん!榎本さん!」
インターホン越しに必死に呼び掛ける。
「こんな時間にどうかされましたか?」
「ゴメン、寝てた?」
「いえ。そろそろ寝ようとしていたところです。」
まぁ、時間は日付を跨ごうとしてるんだから
普通に考えれば相手にとっては非常識な時間帯ではある。
でも俺からしてみれば、強盗に命狙われるかも知れないんだから
これは正に一刻を争うSOSな訳で・・・
「ご、強盗が現れたんだよ。」
「ええっ?」
流石に榎本さんも驚いて玄関の扉を開けた。
「玄関の方からガチャガチャ不審な物音がしたから・・・
俺、慌てて玄関に向かったんだけど・・・」
「犯人の顔は?」
「見てないよ。怖くて玄関開けれなかったもの。」
俺があんまり恐怖に怯えて震えながら話するものだから
榎本さんは一瞬呆れた顔をしたけど
「どうぞ・・・上がって下さい。」
「いいの?」
「どうぞ。」
と、思ったよりも簡単に家に入れてくれた。
「好きな所に座って下さい。」
「あ、うん・・・ゴメンね。寝るところだったんでしょ?」
リビングに通された俺は、二人掛けのソファーに腰掛けて
部屋の中をキョロキョロ興味深く見回した。
「少し待ってて下さい。」
「えっ?何処行くの?」
「心配要りませんよ。ここには犯人は来ませんから。
お茶を淹れて来るだけです。」
榎本さんの部屋はうちと間取りはほぼ同じなんだろうけど
訳の分からない特殊な機材があちこちに置かれてて
仕事場なんだか、プライベートルームなのか
イマイチよく分からない。
ついさっきまで仕事でもしてたのだろうか?
テーブルの上にはノートパソコンが開かれてて
A4サイズのクラフト封筒がその横に置かれてた。
「お待たせしました。どうぞ・・・」
「えっ・・・あっ、すみません。」
「ジャスミンティです。リラックス効果があるので
これを飲めばぐっすり眠れるはずです。」
待てよ?そういえば、この人もまだ正直俺の中で疑いは晴れてないんだった。
もしかすると、このお茶の中に睡眠薬とか混入されてたりして。
「どうしました?飲まないんですか?」
「えっ?い、頂きますよ。」
「フッ・・・心配しなくても僕は毒も睡眠剤も
混入させたりなんてしてませんよ。」
ドキッ・・・
一瞬で心の中を見透かされた?
俺は焦って彼からなるだけ目を逸らしながら
そのお茶を一気に喉に流し込んだ。
「あ・・・美味しい。」
「でしょう?」
「また来るかも知れないよね?」
「さぁ・・・。」
「どうしたらいいの?」
「鍵の本体部分を付け替えるしか無いと思います。
しかし、早くても届くのは3週間後ですけど。」
「ど、どうしよう・・・」
「今夜はうちに泊まられると良いですよ。」
「えっ・・・」
「ご自身の部屋では怖くて眠れないでしょう。」
「いいの?」
「こんな汚い部屋で構わなければ・・・」
「全然、俺のうちより何十倍も綺麗だよ。
わぁ。ありがとう。榎本さんって本当は良い人なんだ。」
「本当は・・・?」
「あっ、ううん。何でもない。」
この人、純粋に防犯ヲタクってだけの話なのかもしれない。
それなのに・・・疑ったりして悪かったかも。
そもそも何だかんだ言って俺も最初からこの人の事は
疑って無かったのかもな。
だって、本気で俺の事嵌めようと企んでる人だって思ってたら
きっとこんな時にそんな人に普通は助けなんか求めないだろう。
ちょっと俺とは毛色が違ってるけど
根っから悪い人ではなさそうだし・・・
「あいにくゲストルームっていうのがうちには無いんで
ここで寝て貰ってもいいですか?」
榎本さんは申し訳なさそうにそう言って、
俺に枕とブランケットを差し出した。
「あっ、俺全然ソファーで寝れるから。」
「それでは僕はもう休みますので・・・」
「う、うん。ありがとう、おやすみなさい。」
「おやすみなさい・・・」
俺はそのままソファーに横になった。
部屋の電気を消すと、シーンと静まり返った部屋に
今度はなんとも耳障りな・・・
ザワザワとした騒音が気になって仕方ない。
これって一体何の音だろう?
俺は気になってソファーから身体を起こし
その音の根源となっているであろう
パソコンに繋がれたイヤホンを見付け出した。
「あ、これかぁ・・・」
榎本さんが何かネット動画でも観ていたんだろう・・・
恐らく消すの忘れて寝ちゃった?
だけどあの人、どんな動画観てたのかな?
ちょっとだけ気になって、そのイヤホンを耳に装着してみた。
「・・・うわっ・・・なに///マジ?」
そこから聞こえてきた声は・・・
明らかに大人向けのエッチな動画か何かの
しかも最中って感じの女性の喘ぎ声だった。
つづく