鍵のかかった部屋 大宮編
第9話
そしてその翌朝・・・
「おはようございます。」
「あ・・・榎本さんおはよう。今日日曜なのに早いね?」
「ちょっと用事で出掛けてきます。二宮さんは今日、
何処かへお出掛けになる予定とか有りますか?」
「いや・・・特には・・・」
「少し帰りが遅くなるかも知れないので、もしもご自宅に
必要な物が有れば今のうちに言って頂けるならば
鍵を開けますが・・・」
「あ、そうか。それなら当面ここでお世話になるから
着替えとか取りに行っとこうかな。」
ひとまず1週間分の下着や服、ゲーム機などを取りに帰る事にした。
「あれから部屋も荒らされてる様子は見られないということは
侵入者は来ていないって事かも知れませんね。
一応貴重品等が無くなっていないかはご自身で確認して下さい。」
「うん、分かった。」
「それでは、僕はこれで。」
「ええ?帰るの?どうせまだ直ぐには出掛けないんでしょ?
お願いだから一緒に中に入ってよ。」
「え・・・」
「もし寝室とかに犯人が隠れてたらどうすんの?」
「は?」
「時間掛かんないから、お願いだから一人にしないでよ。」
俺がマジで怖いからそう言ったら、
榎本さんがクスクスと笑い始めた。
「ンフフフフッ・・・」
「えっ?な、何がおかしいの?」
「あっ・・・フフ・・・いえ・・・」
「笑っちゃってるじゃん!」
「いえ、分かりました。それなら僕はここで待ってますよ。」
「ダメダメ!いいから上がって!」
玄関で待つと言い出した榎本さんの腕を強引に掴んで
俺は榎本さんをリビングに引っ張っていった。
榎本さんは完全にツボに嵌っちゃったみたいで
お腹を抑えてクスクスと笑いが止まらない様子だ。
人が真剣に怖がってるのにツボって何なんだよ?
「榎本さんも笑う時有るんだね?」
「え?そ、そりゃあ僕も人間ですから・・・」
「もしかして榎本さんって人見知りなの?」
「そんなことも無いですよ。ただ・・・」
「ただ?」
「あまり人に興味が無いだけなのかも知れません。」
「ああ・・・ね。」
人に興味ないなんて血が通った人間の台詞とは思えないな。
よーし、そこまで自分を曝け出せないでいるなら
それならちょっとひとつここは冷かしてみるか。
「ちょっとここで待ってて。着替え取って来るから。」
「分かりました。」
俺はそう言って恐る恐る寝室の扉を開けた。
人の気配を感じなかったから、そのままクローゼットを開けて
バッグの中に着替えを適当に詰め込んだ。
そして、ベランダの窓を開けて空気を入れ替えると
床に倒れ込んで大声で叫んだ。
「うわぁぁぁぁ!」
勿論これは演技。
榎本さんがこういう時どうするか・・・
俺はそれを知りたくてわざと侵入者が部屋に潜んでいて
遭遇したというお芝居を思い付いた。
「どうしました?」
榎本さんが血相を変えて寝室に飛び込んで来た。
「は、犯人が・・・ううっ・・・」
「大丈夫ですか?」
「突然物陰から現れて・・・鳩尾を殴られて・・・そこの・・・
窓から逃げた・・・」
俺はベランダの方を指差すと、榎本さんは慌てて
ベランダに出てキョロキョロと犯人の姿を探した。
「ここは3階なんで、角の非常階段を使えはベランダを伝って逃げる事も
考えられなくはないですね。」
「ううっ・・・」
「大丈夫ですか?立てますか?」
「ダメ・・・立てない。」
「お話は出来る様なので肋骨を負傷してるとは考えにくいですね。
犯人の顔は?」
「何か被ってたから・・・」
「そうですか。とにかく病院へ行きましょう。」
「あ、そ、それは大丈夫。えっ?あ、あの・・・」
榎本さんは軽々と俺の身体を抱き上げた。
こんなに華奢なのにめちゃめちゃ体力有るじゃん。
俺はあまりの驚きにお芝居であることをネタバレする
タイミングすら逃してしまった。
そのまま部屋を出ようとする榎本さん。
これは本気で病院連れてくつもり?
それは流石にマズい。
「え、榎本さん?あの、ホントに大丈夫なんで
降ろして貰っていいですか?」
「・・・」
「えっと・・・その・・・何て言うか・・・」
「どうせ芝居とかでしょう?」
「えっ?」
「侵入者なんて最初から居なかった。」
「な、なんだ・・・バレてたの?」
「僕の事、試したかったんですか?」
「いや・・・試すとか、そういうんじゃ・・・」
「ま、だけどこれが芝居で何よりです。」
「え・・・お、怒んないの?」
「この程度の事で怒りませんよ。」
「ご、ごめんなさい。」
「本当に悪いと思っておられるのなら・・・
今夜の夕食、何か適当に作っておいて貰っていいですか?」
榎本さんはそう言って眼鏡の奥からうっすら微笑んで見せた。
俺は不覚にもその微笑みを見て心臓がドキンッと跳ねた。
え?な、何?今の・・・
ていうか、俺はさっきからずっと榎本さんにお姫様抱っこされたまんまだ。
「あ・・・あの・・・もうそろそろ降ろして貰っても///」
「ああ・・・そうでしたね。んふふっ・・・」
多分その時俺は耳まで真っ赤になっていた。
つづく