鍵のかかった部屋 大宮編 1

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鍵のかかった部屋 大宮編

第1話

 

 

それは・・・

俺が飲み会でベロベロに酔っ払って帰宅した日の事だった。
どういう経緯かは覚えてないけど、俺はその飲み会に参加していた
女の子を口説いて自宅にお持ち帰り、というところまでは上手くいってたんだ。

「あっ、ここが俺んち。待って、今開けるから・・・」

ズボンのポケットからゴソゴソと鍵を取り出して鍵穴にそれを突っ込むんだけど

「あ、あれ?」
「どうしたの?」
「いやっ、おっかしいなぁ・・・鍵間違えちゃってる?」

ガチャガチャと部屋の鍵を開けようと何度も試みるけど
鍵自体を回す事が全く出来なくて、俺はドアの前で悪戦苦闘していた。
待たせれば待たせるだけ彼女の苛立ちも伝わるから
何だか余計に焦るせいか開かない気がする。

「ねえ?どうしたの?開かないの?」
「いや・・・何でかな?鍵はこれで合ってるんだけど・・・」
「カズ君?・・・わたし、今日は帰るね。」
「えっ?」
「終電終わっちゃうから。」

泊ってけば?とでも言いたいところだけど
この状況では中に入れる事すら出来ない。

「ご、ゴメンね。それじゃ駅まで送るよ。」
「ううん、大丈夫よ。それより、こんな時間じゃ
 鍵屋さんも開いて無いよね?頑張って・・・」
「う、うん・・・」

と、何ともしらけムードで彼女が帰ってしまった。

「チッ!何なんだよっ!このポンコツ!」

酔ってるのも有るけど、開かない鍵にイラついてしまい
俺はドーンと思いっきり片足でドアを蹴った。
すると、隣の部屋から見慣れない眼鏡の男が出て来て
ジッと眼鏡の奥から冷めた表情で俺の顔を見てる。
恐らく、え知れぬ隣の住民が夜遅くに帰ってきて
ドアを蹴り飛ばして暴れてやがるから
一体どんなヤツか拝んでやろうって感じなんだろう。

実は俺、このマンションには最近引っ越して間もなかったので
近隣の付き合いなんか一切無くて今日もこの男性とは初対面だった。
年齢や背格好からして、俺とあまり変わらない感じ?
それにしてもあんまりこっちを見てるから一応挨拶だけはしておこうと

「こ、今晩は・・・」

と、よそよそしく俺は頭を下げた。

「どうか・・・されましたか?」

蚊の鳴くような小さい声で彼は俺に問い掛けてきた。

「か、鍵が開かなくなっちゃって・・・」

そう答えると、彼は突然俺の方にやって来て
手のひらを俺の目の前にすっと差し出した。

「え?あ、あの?」
「貸して下さい。」
「は?」
「その鍵、僕に貸して下さい。」
「え?あ、こ、これ?」
「僕、セキュリティ関係の仕事してるんで・・・」
「ま、マジで?そりゃ助かるわ。」
「まだお助け出来るかどうかはやってみないと分かりません。」
「そ、そりゃそうだけど・・・はい、これ・・・」

その人に鍵を手渡すと、その人はすぐさまその鍵を鍵穴に差し込んで
二、三回ガチャガチャと鍵を回し・・・

「ね?どんなにやっても無理でしょ?俺もさっきからずっーと同じことやってんだけど
 ビクともしないんだ。」
「・・・少しこのまま待って貰ってもいいですか。」
「え?あ、はい・・・」

そう言って自分の部屋に何かを取りに行った。
そして数分も待たずに何か工具箱のような物を手にして俺の部屋の前に戻ってくると
また部屋の扉の前にしゃがみ込み、無言で暫く自分の工具を使い
あれこれ試してる様子だった。
そして数分後、ガチャッ・・・
俺の部屋の鍵が開いた。

「あっ!すげえ!」
「こんなの・・・お安い御用です。」
「あ、ありがとうございました。お幾らですか?」
「いえ・・・お代は結構です。」
「そうはいきませんよ。あなたが居なかったら俺は今夜野宿になってたもの。
こんな時間だと鍵屋も呼べないでしょうし、管理人に話しても
どんなに早くても業者頼むのは明日以降だっただろうし・・・」
「そうですね。野宿にならなくて何よりです。それでは僕はこれで・・・」
「ああーっ、待って!上がってお茶でも飲んでってくださいよ。」
「いえ。もう遅いので・・・」
「そ、そうですか。あっ、それじゃ後日改めて御礼に伺いますよ。」
「御礼とか本当に結構ですので・・・」
「あ、そうだ!お名前も聞いて無かったですね。
俺は二宮といいます。」
「榎本です・・・」
「榎本さん・・・今日はありがとうございました。」

それから榎本って人はニコリともせず、
その場からひょいっと工具箱を持ち上げると
静かに部屋に戻って行った。

 

 

つづく

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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2件のコメント

  1. こんばんは
    おひさしぶりです。

    新しいお話ありがとうございます。
    大宮で鍵のかかった部屋が読めるなんて、嬉しいです。鍵部屋まんまのお話楽しみにしています。

    1. muchpuさん、今晩は。
      お久し振りでございます。

      新作は今が旬?の鍵部屋の榎本さんが登場です。
      ドラマも9年ぶりの放送に興奮が蘇りますよね。
      このお話では謎解きミステリーは含まれません(;^ω^)
      スピンオフの榎本さんとニノちゃんの恋愛物となります。
      とはいえ、榎本さんのあの独特の雰囲気を表現出来ればと思っています。
      最後までお付き合い頂ければ嬉しいです♪

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