鍵のかかった部屋 大宮編
第15話
榎本さんが突然発熱してダウンした。
初夏の気候だから、まだ朝晩の気温差が激しくて
この時期は確かに体調を崩す人も多い。
40度近い発熱で意識は朦朧としてるし、このままほっとけない。
俺は熱にうなされてる榎本さんの傍に付き添った。
「ハァハァ・・・にの・・・みやさ・・・」
「ん?どうしたの?苦しい?」
「い、いえ・・・どうぞ、僕に・・・構わず・・・
休んで・・・」
「何言ってるんだよ。ここまで高熱の人ほっとけるわけないでしょ。
俺の事は気にしなくていいから。」
「で・・・でも・・・明日は・・・あなたも仕事が・・・」
「大丈夫だって。ほら、それより水分摂って。」
ペットボトルにストローを差し込んで
口元にそれを運び水を飲ませた。
「んっ・・・すみません。」
「困った時はお互い様ですよ。俺もあなたには
いっぱいお世話になってるんだもの。」
「少しは薬が効いて来たみたいです。さっきよりも楽になりました。」
「ダメだよ。無理しちゃ。もう一回熱測ってみる?」
時計は夜中の3時を指してた。
もう一度熱を測ってみたら38度まで下がってた。
「それでもまだ38度か・・・」
「熱は出した方が良いんです。
体の中で免疫がウィルスと闘ってますから。」
「あ、うん。確かにそういうふうに言うよね。」
「あの・・・もう、ホントに大丈夫なんで。
二宮さんはそろそろ休まれて下さい。」
「うん。あなたが眠ったら俺も寝る。」
榎本さんは俺がそう言ったら静かに目を閉じた。
そして暫くすると、すうすうと寝息が聞こえてきた。
良かった・・・本当に薬が効いてきたのかも。
ようやくホッとした俺は、そのままベッドの淵に
状態だけ身体をうつ伏せる感じで眠ってしまった。
それから3時間位して自然に目が覚めた。
榎本さんも良く眠ってる。
それにしても綺麗な寝顔だな・・・
俺はそっと彼の額に直接自分の額を当てて
熱が下がったかどうか確認してみた。
あ・・・下がってる、良かった・・・
と思ったその時、榎本さんの目がパチリと開いて
めちゃめちゃ至近距離で目が合ってしまった。
俺は慌てて身体を離すと、何とかこの場を誤魔化そうと
普通に振舞った。
「あっ///お、起こしちゃった?」
「はい、たまたまですが・・・」
「熱はもう下がったみたいだね?気分は?」
「お陰様で随分楽になりました。」
「そ、そう。良かった・・・」
流石に焦ってしまった。
男が男に額で熱確認されたらビックリするよな。
俺は何の抵抗も感じなかったけど。
でも榎本さんは全くといっていい程動じなかったな。
だけど突然榎本さんはベッドからスッと起き上がり
「少し汗をかいたので着替えます。」
「え?あ・・・大丈夫?自分で出来る?」
「もう、大した熱はありませんので・・・」
「そっか。そうだよね。」
榎本さんはクローゼットの中から着替えを取り出し
何の躊躇いも無く俺の目の前で堂々と着替え始めた。
さっきは夢中だったから、思いもしなかったけど
榎本さんの身体は細身のわりに筋肉質で腹筋はバキバキに割れてるし
男らしい体つきしてる。
男の裸見てドキドキするなんて、俺って変態だったのかな?
「二宮さん?どうかされましたか?」
「えっ///」
「さっきから顔が真っ赤ですよ。まさか早速僕の風邪が移ったとか?」
「えっ?ま、まさか。それはないよ。」
「それならいいですが・・・」
「いえ、分かりませんよ。ずっと付き添ってくれてたわけだから
もう潜伏してるかも知れません。」
「だ、大丈夫だよ。」
「まぁ、心配は要りません。二宮さんがダウンした時は
僕が介抱してあげますよ。」
「うふふ・・・うん、その時は宜しくね。」
「結局殆ど寝てないでしょ?」
「そんなことないよ。あなたが眠ってる時、俺も寝てたもの。」
「それでも2,3時間といったところです。本当にすみませんでした。」
「謝んないでいいよ。それより、今日は熱が下がっても
一日寝てなきゃ駄目だよ?夏風邪はこじらせると厄介だから。」
「そうですね。」
「あー、だけどホント大した事なくて良かったぁ。」
「何と言っらたいいのか・・・」
「え?」
「まさかここまでして貰えるなんて・・・
正直嬉しかったです。ありがとうございます。」
「やだなぁ、改まっちゃって。あ、まだ食欲ないでしょ?
俺、お粥作ってあげるね。」
もうこれって完全に俺、榎本さんの彼女だな。
だけど、それを楽しんじゃってる自分が居るのも事実で
そういうのも全然悪くないって思いながら
キッチンに向かい、お粥を仕込んだりした。
つづく