
最終章
ラブソングは君と③
ニノと連絡が途絶えてしまった事で、不安になった俺はその週の週末に電車に乗り箱根へと向かった。
おばさんが退院したとの連絡までは貰ったんだけど、その後の俺のメールに返信が無くて、恐らく仕事を引き継いで貰ったりしているから、今は忙しくてそれどころじゃないんだろう。
だけど、どんなに忙しいからって、丸一日ってことは流石にないはずだ。どうして電話の1本も入れられないんだろう・・・
とにかく全ては行けば分かること。忙しく仕事してたら忘れてるけど、仕事してない時は、おいらはニノの事を考えない日はない。とにかく逢いたいって常に思ってた。
頭も身体もニノのことばかりを求めてて、欲求が満たされないことによる病を引き起こしそうで相当ヤバいところまで来てる。
もう、正直俺の我慢も限界に近くて、これは直接会いに行くしかないだろうって思ってニノからの返事を待たずに勝手に箱根に向かってた。
旅館の本館に到着すると、タクシーを降りてフロントへ向かった。
「いらっしゃいませ。」
「あの、すみません。大野ですけど、二宮くん居ますか?」
「あっ・・・ちょっとお待ち頂けますか?」
フロントの従業員が慌てて控室の方に走って行った。ニノを呼んでくれてるのかな?でも、俺の目の前に現れたのはニノじゃなくておばさんだった。
「大野さん、この前はごめんなさいね。」
「お母さん、もうお仕事されて大丈夫なんですか?」
「お陰様でね。」
「あ、あの・・・それで・・・和也君は?」
「大野さん、それより今日いらっしゃると聞いてたからお部屋を準備してお待ちしてたのよ。お部屋に案内しますから、お部屋の方でちょっとお話しましょうか?」
「えっ・・・あ、はい。」
俺はおばさんに連れられて、客室に案内された。
「さぁ、どうぞ、こちらですよ。」
「あ、それじゃあ失礼します。」
おばさんは俺の顔を見て、ハァッと大きく溜息をついた。
「お、おばさん?どうかしましたか?」
「違うのよ・・・大野さんはとってもイイ人だから、私はね反対したのよ。」
「え?は?」
「うちの子、言い出したら効かなくって。許してやって貰えないかしら?」
「あの、許すって、何をですか?」
「それが急にね・・・結婚するとか言い出したのよ。」
「ええっ?」
おいらには何も言ってなかったけどな。そっか、ニノは決心してくれたんだ。
「つい先日なんだけど、一度破談になってたお見合いの話があったのは知ってるでしょ?」
「えっ・・・あ、はい。」
「その縁談を取り持って下さった方がね、お相手にもう一度頭を下げて下さってね。お相手の方は元々カズの事を気にって下さってたものだから、正式に婚約が決まっちゃったのよ。」
「えええっ?う、嘘ですよね?」
「やっぱり大野さんにはあの子何も話してないのね。」
「お母さん?ニノから何を言われたか知りませんけど、僕は騙されませんよ。ニノは?ニノは何処ですか?ニノに逢わせて下さい!」
「カズは別館で働いてくれてるんだけど、大野さんが来ても逢わないと言ってるのよ。」
「そんな・・・俺が知らない間に勝手にそんな・・・」
駄目だ。おばさんとここで延々喋ってても埒が明かない。とにかくニノの口からハッキリとしたことを聞かないと。
「大野さん、お願いだからカズの事は忘れてあげてちょうだい。それがあの子の為だし、あの子はあの子なりに悩んで出した答えだと思うのよ。」
「そんな・・・」
「納得いかないのは良くわかります。でもね、やっぱりこれが自然なんじゃないかしら?所詮、同性同士なんて最初から無理があったのよ」
「おばさんだって賛成してくれてたじゃないですか。」
「勿論今だって大野さんのことは、私はとても素敵な方だと思ってるわよ。でもねぇ・・・それを最終的に決めるのは息子だから。」
おばさんの言葉なんてもう途中から全然耳に入って来ない。俺はその場を立ち上がり、おばさんに一礼すると部屋を飛び出して玄関前に泊まってるタクシーに乗り込んだ。
「お客さん、どちらまで?」
「すみません、この旅館の3号館までお願いします!」
全てはニノが仕組んだ作り話に決まってる。俺は絶対に信じない。
つづく