
最終章
ラブソングは君と⑧
「二宮くんは、今も独身ですよ。」
「・・・そ、そっか。」
「そっかって、それだけ?」
「あ、うん・・・だって独身だろうと既婚者であろうと、ニノはおいらのところに帰る気はないもん。」
「なるほど、そういう解釈なのか・・・」
「えっ?」
「大野さん、僕の小説はね、実話を元に書いたお話ですよ。でも、結末は僕が想像で書くしかなかった。それは、主人公の二人がある事情で離れ離れになってしまって、まだ結末を迎えてないからなんです。あ、勿論その話は僕の言葉で書いてますけど、実は二宮くんからあなたへのメッセージが込められてます。」
「え・・・メッセージ?」
「彼から、そういうニュアンスで書いて欲しいというような指示が決して有った訳じゃないけど。あの子はそういう子なんです。でも、そんなの本当は大野さん、あなたの方が僕なんかより一番よく分かってると思うけど。」
「これ読めばニノの今の気持ちが分かるってこと?」
「恐らくですけど。まあ、僕はこれで帰りますから、出来るだけ早くそれ読んでみて下さいよ。」
「ええ?もう帰るの?」
「僕からの報告ってそれだけなんで。あっ、それからもう一つだけ・・・これも僕から聞いたことは内緒にして下さい。二宮くん、旅館の後継の話はなくなったんです。」
「えええっ?う、嘘?何で?」
「事情が大きく変わったみたいですよ。で、今は彼東京に住んでます。」
「東京?ど、何処に?」
「僕にも居場所は教えてくれないんで・・・」
「それじゃ、逢いたくても逢えないの?」
「だけどマスターも言ってましたよね。彼はここに週一のペースで現れるんですよ。それは何でだと思います?」
「な、何でって言われても・・・」
「大野さんもさっき自分でも言ってたじゃないですか。懐かしいなって・・・」
「あっ・・・」
「二宮くんに本当に会いたいのなら、大野さんもここで待っててあげればそのうち必ず会えますよ。」
「そ、そうか・・・でも、それならどうして連絡して来てくれないんだろうな?おいらにはもう逢いたくないんじゃないの?」
「それが知りたいなら、僕の小説読んでメッセージを受け取ってあげたらどうですか?僕はお二人のお陰で凄くいい小説が書けて本当に感謝してるんです。彼に御礼をすると伝えたけど、要らないって断られちゃいました。自分たちの事を小説にして残してくれるだけでも有難いんだって、そう言ってました。僕は二人に幸せになって貰いたいです。出来れば続編も書かせて頂きたいくらいなんで・・・大野さん、頑張って下さいね。僕は応援してますから。」
「が、頑張るって・・・」
「それじゃ、僕はこれで失礼します。」
相葉くんはそう言うと、立ち上がって財布からお金を出して俺に手渡そうとしたから
「ここはおいらが払うよ。」
「いえ、誘ったのは僕だから・・・」
「いいって。また誘ってよ。」
「そうですか?分かりました。それじゃ、次は僕が奢りますね。ご馳走様でした。」
そう言って相葉君は帰っていった。俺は一人でカウンターに座り、手渡された小説本をパラパラと捲った。
そこには、相葉くんの言葉ではあるけれど、ニノからの俺へのメッセージが込められてると聞いて、なんだか急に緊張してきて胸がドキドキと高鳴った。
「マスターおいらも帰るよ。」
どうせなら、その小説は自宅に戻ってゆっくり読みたい。
俺はカウンターにお勘定を置いて大事にカバンの中にその相葉くんから貰った本を仕舞うと、逸る気持ち抑えながら足早に自宅へと戻っていった。
つづく