
最終章
ラブソングは君と⑩
俺は帰宅してから、リビングのソファーに腰掛けて、相葉くんから渡された小説本を最初から読み始めた。
相葉くんの言葉で書かれてはいるものの、まるでニノが語ってるかのようにさえ感じた。幼少時代の出会いから、偶然の再会や実際に付き合うまでの経緯が事細かく記されている。
ニノが、あの時こんなふうに思ってたんだ・・・とか、俺が知らなかったニノの想いがそこには綴られていて、半分読み終わらないうちに俺は一人で号泣してしまってた。
そして、最後まで読み終わったのが深夜1時過ぎ・・・
相葉くんが言ってた、ニノからのメッセージはまるで暗号化されてるみたいにぼんやりとし過ぎて俺にはいまひとつ理解出来ない。
俺は、どうしてもそれが引っ掛かって、モヤモヤが晴れなくて、夜中にも関わらず相葉くんに電話を入れた。
「もしもし?大野さん・・・?」
「あっ、相葉くん?ゴメンこんな遅くに。寝てた?」
「あ、ううん。まだ仕事してたけど。」
「全部読ませて貰ったんだけどさ、ちょっと気になったところがあって・・・」
「え?あー、あれでしょ?」
「ニノがさ、おいらのこと待ってる、時間がないって・・・何なの?」
「それは・・・ゴメンね、大野さん。僕の口からは言えなんだよ。」
「な、何で?時間がないんだろ?頼むから教えてよ!あれはどういう意味なの?」
「具体的なことは言えないんだ。でも、分かってくれましたよね?彼が言いたいことは・・・」
「分かんないよ!相葉くんは俺達のこと応援してくれるんじゃなかったの?」
「それは、応援はしてます。でも、これは二宮くんとの男同士の約束なんで。幾ら大野さんといえどもお話するわけにはいきません。」
「もう、何なんだよ?ただおいらに遠慮して逢いに来れないってだけじゃない。俺は直ぐにでも逢いたいんだよ。電話したって着信拒否されてるし、いったいどうすりゃいいんだよ?」
「落ち着いて下さいよ、大野さん。ラブストーリーなんて、二転三転するのが面白いんです。二宮くんは自然に終わるのならそれも運命だと思ってるみたいだけど、僕は彼はまだ全然会う事を諦めてはいないと思いますよ。」
「それじゃ、どうして着信拒否なんて続けてるんだ?」
「とにかく、あそこのBarで毎日とはいかなくても暫く通ってみたらどうです?二宮くん、きっとあなたのこと待ってると思いますよ。」
「分かったよ。ゴメンね・・・取り乱しちゃって。おいらBarにとにかく通うよ。ありがとうね、相葉くん。」
本当にニノがあそこのBarに姿を現すと分かってるなら、俺はマジで住み込みでも働きたいくらいだ。そして、ニノが現れたら縄付けてでもそれ引っ張って連れて帰る。
そして、俺はその翌日からBarに通い詰めることにした。とはいえ、仕事もそこそこ忙しくて店を訪ねるのは仕事が終わってからだから、開店と同時に張り込むというのはかなり無理が有る。
「いらっしゃいませ・・・」
「あ、マスター、ゴメン・・・ニノ来てなかった?」
「あぁ・・・大野さん、30分程前までそこで飲まれてたんですけどね。」
「えええっ?マジで?」
「開店直後からいらしてたんですよ。」
「マスター、ニノが何処から来てるか聞いてない?」
「そこまではお聞きしてませんねぇ。」
「はぁ・・・そうかぁ。くっそー。入れ違いか・・・」
「そうそう、大野さん、二宮さん今日がお店に来られるの最後とか言われてましたよ。」
「はっ?さ、最後?嘘?」
「何でも、グアムに移住するとかで・・・」
「グ、グアム?」
「明日日本を発たれるそうですよ。」
「明日?」
「何もご存知なかったですか。大野さんが昨日おみえになった話もしたんですけど、どおりで二宮さん溜息ばかりついて、ちょっと元気が無いと思いました。」
やっぱりニノは俺の事を待ってた?
「え?明日、何時とか聞いてない?」
「午前中の便だからと早く戻られたんだと思いますけど。」
グアムと言えばニノの親父さんがホテル経営してるとか言ってたから、そっちの手伝いで行くことになったのか?
だけど、移住ってなんだよ?完全に日本から居なくなるつもりなのか?そんな・・・俺の頭の中はちょっとしたパニック状態だ。
「と、とにかく教えてくれてありがとう。マスターまた来ます!」
時間がないって、この事だったのか・・・
俺は店を出て自宅へとんぼ返りして、大急ぎで明日の成田発グアム行きの飛行機の出発時刻を調べた。
もう、こうなったら仕事は休んで早朝から空港で待ち構えるしかない。俺にとっても、ニノにとっても、きっとこれが最後のチャンスかもしれない。
ギリギリでも、まだ間に合ってることには変わりはない。絶対大丈夫。俺達はまた一緒に暮らせるようになる。俺は自分に強く言い聞かせた。
つづく