最終章
ラブソングは君と⑪
その次の朝、俺は奈緒ちゃんに連絡を入れて今日は仕事を臨時休業するということを伝えた。
グアム行きの午前中の出発便の時刻も全てチェックして、俺は空港へと向かった。途中で何度か電話も掛けてみたけど、相変わらず着信拒否になっている。
空港に到着すると、思ってた以上に出発ロビーに人がごった返してて、この中からニノのことをスムースに探し出せるのか不安になった。
元々何時の便に乗るのかすら分からないから、受付のカウンター付近で待ち構える事にしたんだけど、とにかく焦って出てきてしまったから、俺はトレーナーにブルゾン、ジーンズ姿と至って地味な格好だった。どうせなら物凄く目立つ派手な格好で来るべきだったと俺は今更ながら後悔した。
次々にカウンターに人が並んでるんだけど、ニノの姿は一向に見当たらない。
待ってる場所はここで間違いないはずなんだけど・・・もしかして、見落としてしまったのか?そろそろ時刻は正午を回ろうとしてた。
俺は落ち着かなくて、立ち上がって辺りを一通り探して回った。だけどやっぱりニノらしき人物は見当たらない。もしかしたら、マスターは時間を間違えて聞いてたのかも。
俺は更にそこから3時過ぎまでニノが現れるのを待った。それでもニノを見付ける事が出来ない俺は、痺れを切らして受付カウンターの従業員に質問してみることにした。
「あの、みません。搭乗者で二宮和也って人を探してるんだけど・・・」
「グアム行きのお客様でしょうか?」
「そうです。」
「大変申し訳ございませんが、お客様の個人情報に関わりますので、お答えすることが出来ません。」
「そ、そんな・・・何とかならないんですか?乗るか乗らないかだけでも知りたいんだけど。」
「決まりですので・・・」
「なんだよ?教えてくれたっていいじゃないか!ケチ!」
俺は諦めてもう一度ロビーをウロウロ探し回った。そうこうしてるうちに空港に着いてから、かれこれ5時間も経過してしまった。
結局、ニノは姿を現さず、俺は呆然となりながら空港を後にした。
俺がトイレ行った隙にカウンターを通過した・・・だとか、完全にニノと気付かずに見過ごしてしまったんだと思い込んだ。
どうしてグアムなんか行っちゃうんだよ?ニノは俺との事本当に終わらせたいのかよ?
もう、真っ直ぐ家にも帰る気がしなくて、俺は再びあのBarに立ち寄っていた。
「いらっしゃいませ。」
「マスター、何時もの・・・」
「二宮さんにはお会いになられましたか?」
「ね、本当にグアム行くって言ってたの?」
「ええ・・・」
「今日の午前中の便で?」
「はい。」
「朝からずっと出発ロビーで待ち伏せしてたけど、現れなかった。」
「本当ですか?」
「あいつ、また嘘付いたんじゃないかな?」
「私にはそういう感じには見えませんでしたけど・・・」
「分かんないけどね。おいらが見過ごしただけなのかも。」
「何か急な事情で取りやめになったとか?」
「それならいいけど・・・」
「お待たせしました。ウィスキーロックです。」
「あ、ありがと・・・」
俺はグラスの中のロックを一気に流し込み飲み干した。
「マスター、お代わり下さい。」
「気持ちは分かりますけど、ペース落とされた方が良くないですか?」
「いいんだ。飲まなきゃやってらんない!」
「だけど、今夜はお一人ですし・・・」
「いいって。大丈夫、マスターに迷惑掛けないから。」
「はあ・・・」
そこ1時間くらい、俺は信じられない勢いで酒を飲んだ。
酔いが回り出すと、急に感情がコントロール出来なくなり、勝手にポロポロと涙が溢れ出して、マスターが困った表情で俺におしぼりを差し出した。
「だ、大丈夫ですか?」
「ううっ・・・何でだろ?泣きたくなんかないのに、勝手に泣けてくるんだよ。」
こんなに辛い想いするなら、どうしてあの時すんなり俺は身を引いたりしたんだよ。婚約なんて嘘だと分かってたのに、無理やりでも仕事辞めてニノと一緒になるとどうして言わなかったんだよ。今更自分を責めてもどうにもならないことくらい分かってるけど、何処に怒りをぶつける事も出来ず、ただ悔しさだけが込み上げて涙が止まんない。
そうだ・・・俺がグアムまで行けばいいんだ。ニノを連れ戻しに行けばいい。俺が行動を起こさなければ、ニノは日本に戻って来ないかも。箱根のおばさんに聞けば、グアムのホテルの場所は教えてくれるかもしれない・・・
明日早速電話して聞いてみよう・・・
そう考えた途端に涙はピタリと止まったけど、酒の飲み過ぎで、今度はしゃっくりが止まんなくなった。
マスターがクスクスと笑いながら俺に水の入ったグラスを差し出した。
それから1時間くらいニノの事を考えながら飲み続け、まだ意識がしっかりしてるうちに、お会計を済ませてそろそろ帰ろうかとしていたその時だった。
カラン、カラン・・・と店の扉の開閉する音が聞こえ、
「いらっしゃい・・・あっ・・・」
マスターが何か言い掛けて、声を詰まらせた。
つづく