
最終章
ラブソングは君と①
「大野さん!大野さん、居る?」
「あ、松本さん、お疲れ様です。先生はお部屋の方にいらっしゃいますけど・・・」
「大野さーん!」
「えっ、あ、潤君。おはよう、早いね。」
「ニノから連絡あって、突然仕事辞めるって言い出したんだけど、何が有ったの?また喧嘩?」
「え?喧嘩なんかしてないし。っていうか、もう辞める事話したのか?」
「一体何が有ったっていうんですか?急にそんなこと言うなんて・・・」
「ニノから聞いてないの?」
「実家がどうだとか言ってたけど、どうせあなたと喧嘩でもして言い訳に実家持ち出したんだろ?もう頼むよ、大野さん。こっちは遊びでやってる訳じゃ無いんだよ。ニノは今や売れっ子のモデルなのに急にあんなこと言われても、ああそうですかってそれで済むわけないだろ?」
「ま、まあ、ちょっとお茶でも飲んで落ち着きなよ。」
「大野さん!そもそもあなたでしょ!俺にニノを紹介したのは。ちゃんと責任取って下さいよ。」
「箱根で旅館を営んでるニノのお母さんが急病で倒れちゃったんだよ。それは本当の話なんだ。だけど、ニノは本気で旅館を継ぐ気なんだな・・・」
「他に後継げる兄妹とか親戚は居ないの?」
「二宮家に男の子はニノ一人だって言ってたよ。」
「あぁー最悪だわ。ニノには芝居のオファーも来てたのに・・・まぁ、親が倒れて代わりが居ないんじゃどうにもならないってことか。」
「ニノも辞めたくて辞めるんじゃないんだよ。そこは分かってやってよ。」
「ニノの代わりなんて他に居ないしなぁ・・・マジで困った。」
潤君が頭を抱え込んで悩んでいたら、仕事部屋から山下君が現れた。
「あの、大野さん?ちょっといいですか?」
「ん?山下君、何か分かんないところあった?」
「ええ・・・このイラストの挿絵なんですけどね、先生の原画が一つ飛んでるみたいなんですよね。」
「ああーっ、ゴメン、ゴメン。ここは後回しにしてたんだ。言うの忘れてたわ。」
「そうでしたか。ビックリした。僕が間違ってるのかと思いました。」
「ゴメン、ちょっと君・・・山下君だっけ?」
「えっ?あ・・・はい。そうですけど・・・」
「君なかなかのイケメンだよね?」
「ええ?そ、そんなことは・・・」
「いや、君、良いかも知れない!ね、山下君さ、モデルの仕事やってみる気ないかな?」
「はっ?」
「じゅ、潤君?」
「ニノとはタイプ違うけど、彼も今風過ぎていける気がする!大野さん、ちょっと山下君を借りるけど良いかな?」
「え?ちょっと、潤君・・・」
ニノから仕事のキャンセルを食らった潤君は、必死なのは分からないでもないけど、今度は山下君にモデルの仕事を勧めてた。
っていうか、本当にニノは自分の夢を途中下車しちゃったんだ。なんかそれを想うと俺の方が辛くなった。
「それより、まさかだけど大野さんまで仕事辞めてニノの実家に行くとか言い出さないよね?幾ら何でも個展はドタキャン出来ないからね?分かってるよね?」
「わ、分かってるって・・・」
「それならいいけど。絶対ドタキャンなしだからね!」
「う、うん。」
まあ、ニノとの約束だし、個展だけは最後までやり遂げるつもりだけどね。でも、個展が終わったらイラストの仕事はもう受けないって決めてる。
向こう3か月程度は通常の仕事も入ってるし、そこまではちゃんとやるけど、それから先の依頼はすべて断ってから俺もキッパリ辞めると決めてる。
遠距離恋愛なんかで満足出来るわけないんだ。一日だって早く仕事辞めてニノの傍に飛んで行きたいくらいなんだから。
「それじゃあ、個展の話はまた今度ね。で、悪いけど2時間ほど山下君を借りるよ。」
「マジかよ?」
「さっきも言いましたけど、あなたにだって責任はあるんだから、それくらいは協力して下さいよ。」
「お、おいらは構わないけど・・・山下君が嫌がるようなら無理には・・・」
「あ、僕ファッション系雑誌って結構興味有ります。」
「ほうら、話は決まったね。それじゃ、山下君行こうか。早速カメラマンに紹介するよ。」
「は、はい。」
その後、山下君がニノの代わりにモデルの仕事を引き受けたと聞いた時、あまりにも意外な展開に俺は驚いてしまった。
つづく