
第6章
間違いだらけの選択⑥
「もうさ、お互いに我慢すんのやめない?今の俺らにとって大事なことってさ、お互いに離れないってことじゃないの?そりゃあ最初はさぁ、俺らは成り行きで協力とか芝居とかから始まったことだからさ、いまだに付き合ってること自体が嘘なのかホントなのか分かんねえ、みたいな不安が付き纏ってんだと思うけど、おいらは完全に今はニノのこと本当に好きだからね?神様に誓ったっていいよ。ニノが出てって3週間の間、おいらは色んな事考えたよ。そんなにおいら嫌われてるのなら、このまま諦めようかって・・・ニノの為にね。」
「おーのさん・・・」
「でもね、これだけは聞いて欲しいんだ。おいらどんな事を考えたとしても、それは全部ニノの為にって考えちゃうんだよ。全然自分の為とかじゃないんだ。分かる?でもさ、おいらだって何も自分を犠牲にすることなんて無いんじゃないかって、想い直すようになったんだ。おいらも幸せになりたいもん。それがどういうことか分かるか?おいらの幸せは、ニノと一緒じゃなきゃ掴めないんだよ。お願いだから分かってよ・・・」
「俺と一緒に居たら・・・あなたを不幸にしちゃうかもしれないんだよ?」
「だから、そんなことニノが勝手に思ってるだけじゃん。おいらは仮に不幸になったとしても、ニノと一緒ならそれも受け入れる。本当だよ。」
「あなたの実家にお邪魔したでしょ・・・」
「えっ?あ、ああ、あの日だよな?ニノが出てった日。」
「そう・・・俺、本当は凄く嬉しかったの。結婚したいってご両親に言ってくれた時。」
「そ、そうなの?だったらどうして・・・」
「おじさんとあなたが最初に交わした会話、覚えてます?」
「え?父ちゃんと?おいら何か言ったっけ?」
「ううん。おじさんが、仕事はどうだ?ってひと言目にあなたの仕事の心配をしてたでしょ。」
「そ、そうだった?」
「俺、あの時に思ったの。あなたと俺は一緒にいちゃいけないんだって。」
「えええっ?それがどうしてそんなふうに思うんだ?うちの父ちゃんは、俺の顔見ればいつも仕事のことは順調か聞いてくるんだ。あれは挨拶みたいなもんだよ?」
「そうじゃないよ。おじさんはあなたが、息子が立派に独立して成功してる姿を見るのが楽しみなんだ。俺には分かる・・・」
「それで、あんなこと言ったのか?」
「えっ?」
「都合よく利用してた、とかだよ。」
「あ、うん・・・」
「おばさんが旅館を継いで欲しいって言ってた後の話だもんな。結婚となるとうちの家族を旅館に招いて披露宴するとまで言ってたもんな。そうかぁ・・・そうだったのかぁ。おいらってホントどこまでも馬鹿だよな。そこに全然気が付かないなんてさ。」
「俺、あなたには今の仕事は続けて欲しいと思ってる。相葉さんの小説の挿絵だって成功すれば、今よりもっと仕事の依頼は増えるの目に見えてるでしょ。俺と一緒に居る事で、あなたが自分の人生まで投げる必要は無いって思った。だから、俺は決めたんだ。もうここには戻らないって・・・」
「おいらの気持ちは?」
「えっ・・・」
「ニノは自分の考えだけで勝手に色々決めたって言うけど、おいらの気持ちは考えてはくれないの?」
「そ、それは・・・」
「おいら、前にも言ったじゃん。イラストの仕事は確かに好きで選んでやってる事だよ。だけど・・・そんな事よりおいらはニノの方が大事なんだ。どうして分かってくれないの?」
「おーのさん・・・」
「もっとおいらを信じてよ。おいら、ニノの代わりに仕事を手放すことになっても、ニノやおばさんを恨んだりしないよ。ニノと一緒なら、おいらはこの先どんな仕事でもやっていけるって自信あるよ。だから、もうおいらから逃げたりしないで。お願いだから。おいらはニノをきっと幸せにする。だから、ニノはおいらのこと幸せにしてよ。」
「本当に?それで絶対後悔しない?」
「するもんか!後悔なんて死んでもしない。むしろ、ニノと離れ離れになる方が、後悔する。」
「おーのさん・・・」
ニノは俺に駆け寄り、俺の胸に飛び込んで泣いた。俺も必死に堪えてたけど、一緒に泣けてきた。
「ニノ、もう何処へも行くなよ?」
お互い目を真っ赤にしたまんま、どちらからでもなく熱い口づけを交わした。もう二度と離すもんかって、抱き締めたその腕にギューッと俺は力を込めた。
つづく