第6章
間違いだらけの選択⑨
「ねぇ?松本さん、何だったの?」
「個展、決まったんだ。」
「個展?」
「そう。おいらのイラスト画の個展を潤君とこの編集部主催で開いてくれることになったって。」
「ホントに?凄いじゃん。良かったじゃん。」
「うん。個展を開くのはおいらの目標だったからね。」
「そっかぁ。それじゃ益々あなた忙しくなるね。」
「どうだろ?でも、もう個展を開けるだけでおいらは十分満足だけど・・・」
「何を言ってるんですか。そこがゴールじゃないでしょ?早速次の目標決めないとダメだよ。」
「えっ?次?次なんて考えてないよ。おいらこれ以上忙しくならなくてもいいし。」
「そんな欲のないことでどうすんの?世の中にあなたの才能を認めて貰うチャンスじゃない。俺も全力で応援しますよ。」
「んふふっ、ありがと。ニノが一緒なら心強いよ。」
「それじゃ、さっさと風呂に入って今夜は祝杯だねっ。」
俺達はその後久し振りの露天風呂を楽しんで、部屋に戻った。それから2人っきりでゆっくり夕飯を食べてから部屋で寛いでいたら、今日はニノが何だか別人みたいに俺に甘えてきた。
スイートルームの雰囲気がそうさせてるのか分からないけど、二人掛けのソファーに仲良く並んで持たれてテレビを見ていたら、ニノの方から積極的に唇を重ねてきた。
俺はされるがまま、そんなニノにうっとりしていると、
「んっ・・・おーのさん・・・しよっか・・・」
って、まだ時間も9時前だっていうのに、俺の手を引っ張ってベッドの方に誘った。
「え?だってまだちょっと早くない?」
「いいの。だってあなた酔っ払ったら寝ちゃうでしょ?」
そう言われてみれば、前回旅行で来た時も俺は酒に酔いつぶれてそのまま寝ちゃってた。ニノはそこを心配してるんだ。
俺はニノとベッドの淵に腰掛けて、甘いキスを交わしながらゆっくりと彼の身体をベッドに押し倒して馬乗りになった。
プルルルル・・・・プルルルル・・・
これからっていうその時、フロントから電話が入った。
「んっ・・・待って・・・電話だけど。」
「いいって。出なくても・・・」
「でも、もしかしておばさんとかじゃないか?」
「あっ・・・そうだ。俺忘れてた!母さんと約束してたんだ。」
ニノはそう言うと慌ててベッドから飛び降りて電話を取った。
「はい?もしもし・・・うん、俺だけど。ええっ?わ、分かった。直ぐ行く。」
ニノが電話を切った後、真っ青な顔で俺を振り返った。
「ニノ?どうかしたの?」
「た、大変。」
「え?」
「母さんが・・・突然倒れたらしい。」
「ええっ?ま、マジか・・・」
「今、救急車呼んでるって。俺直ぐに行かなきゃ。」
「ま、待って!おいらも一緒に行くよ。」
電話の話だけではどういう状況なのか全く分からなかったけど、救急車を呼んだってことは、普通の状況では無い事は明らかだ。
ニノと俺は浴衣から洋服に着替えると、大急ぎで従業員の控室へと向かった。
つづく